ちょっと真面目チョット皮肉149
石山祐二 *
地震工学では「応答スペクトル」という用語がよく用にいられる。この他に近年では「要求スペクトル」、「耐力スペクトル」などという用語も用いられているので、各種スペクトルの意味などをまとめてみよう。

図 1は 1978年宮城県沖地震の際に 9階建の鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造建物の 9階と 1階で記録された加速度(単位はガル =cm/s2)の 30秒間の時刻歴である。(地震動にほぼ等しい) 1階の波形はかなり複雑である。一方、 9階の最大振幅は 1階に比べ約 4倍に増幅され、かつピークが約 1秒ごとに周期的に表れている。耐震設計では、図 1の上のような地震動による構造物の挙動(応答)が重要で、特に重要なのは(時間的な変動よりも)最大応答値である。最大応答値が分かるならば、それに耐えるように構造物を設計することが可能となるからである。このため、地震動そのものではなく、構造物の最大応答値を示しているのが応答スペクトルである。



すなわち、応答スペクトルとは、地震動の構造物への影響を表すために,構造物を 1自由度系にモデル化し、横軸に構造物の固有周期(固有振動数の場合もある)、縦軸に最大応答値を示したもので、応答値によって図 2のように a)加速度応答スペクトル、 b)速度応答スペクトル、c)変位応答スペクトルなどがある。
応答は構造物の振動エネルギーを吸収する度合(減衰定数で表される)によって影響される。例えば、お寺の鐘のように数分間(場合によっては 10分以上)も振動し音が聞こえるのは、減衰が非常に小さいからである。一方、最近では多くの開き戸にはドアクローザが付いていて、ゆっくり閉まる。これは、ドアクローザには「ばね」とダンパーが組み込まれていて、このダンパーによる減衰が非常に大きいからである。
図 2 応答スペクトルの例(エルセントロ 1940NS)
応答スペクトルには、異なる減衰定数に対する数本の曲線が描かれている場合がある。減衰定数が大きいほど応答値は小さく、図 2の曲線の減衰定数は上から順に 0, 2, 5, 10, 20%である。図 2のような応答スペクトルが得られるならば、構造物の固有周期と減衰定数を推定すると、その地震動による構造物の最大応答値を容易求めることができる。
* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2013.8 掲載