ちょっと真面目チョット皮肉 154
石山祐二 *

日本を代表する国際人・教育者であった新渡戸稲造(にとべいなぞう、1862~1933 年)を旧 5 千円紙幣の肖像(図 1 )として知っている人も多いであろう。

新渡戸は 1881(明治 14 )年に北海道大学の前身である札幌農学校の第 2 期生として卒業、北海道開発に尽力、 1883(明治 16 )年に東京大学に再入学、米国とドイツに留学した。米国人の妻メリー夫人を伴って 1891(明治 24 )年帰国後、札幌農学校教授、京都帝国大学教授、第一高等学校校長、東京帝国大学教授、東京女子大学初代学長などを歴任した。
一時期、夫妻とも体調を崩し、米国カリフォルニアで転地療養し、この間に日本の精神文化を紹介した名著「武士道」を英文で書き、 1899(明治 32 )年に米国で出版、ドイツ語・フランス語など各国語にも訳されてベストセラーとなった。この本により国際的にも有名となっていた新渡戸は 1920(大正 9 )年の国際連盟設立に際し事務次長に選任され平和文化活動を行った。日本が国際連盟を脱退した 1933(昭和 8 )年の秋にカナダ・バンフで開催された第 5 回太平洋会議に出席後、満 71 歳でカナダ・ビクトリアにて客死した。
参考文献の「武士道」は英文の “BUSHIDO : The Soul of Japan”の邦訳で 2005 年に出版された文庫本である(なお、最初の邦訳版は 1908(明治 41 )年に出版されている)。本文 180 頁は 17 章からなり、どの章も 10 頁程度で難しそうな用語にはルビが振ってあり非常に読み易い。
内容的には、 100 年以上も前のことで、理解し難い部分もあり、現在の日本人の精神を表しているとは思えない部分もある。しかし、日本人には武士道の精神が今でも引き継がれていると感じる点、できることならば引き続き守っていきたいと思う点も多い。この本を読んでいくうちに、訳者が 21 世紀になってあらためて邦訳・出版した理由が自然と分かってくる。
最近の日本国内の諸問題や外交・近隣諸国との国際関係などを考えると、武士道の良い点は問題改善のために役立つに違いないと感じ、老若男女を問わず、特に若い人には読んで欲しいと思っている。そして、近隣諸国との軋轢がある中、日本の主張のみを言うのではなく、日本を含め世界各国がどのように考え・行動すべきかを示し、「武士道」を超えるようなものが出版されることを願っている。

1996年の北海道大学の創基 120周年記念に際し、彼の顕彰碑が構内のポプラ並木に隣接して建立され、その台座には “I wish to be a bridge across the Pacific.”と英語で刻まれている。なお、彼が客員教授をしていたカナダ・バンクーバーにあるブリティシュ・コロンビア大学には日本庭園があり「新渡戸記念庭園」と呼ばれている。庭園内には、彼の胸像や日本語の石碑(写真 2 )もある。
(参考文献)新渡戸稲造著、岬龍一郎訳「武士道」、PHP 文庫、2005 年 8 月第 1 版第 1 刷
* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2014.6 掲載