ちょっと真面目チョット皮肉168
石山祐二*
米国の建築基準は IBC (国際建築基準)と呼ばれ、米国西部、東部・北東部、南部でそれぞれ用いられていた UBC(統一建築基準)、NBC(国家建築基準)、SBC(標準建築基準)を統一して作成された。IBC は 2000 年の初版以降 3 年ごとに改訂されいる。
IBC の耐震規定は基本事項のみで、詳細は米国土木技術者協会の ASCE 7「建築物およびその他の構造物に対する最低の設計用荷重」に書かれている。IBC と ASCE 7 からなる米国の耐震規定の特徴は以下の通りである。(なお、日本の建築基準法とは異なり IBC は米国全土に一律に適用されるのではなく、その採用や変更は各州や市に委ねられている。)
(1) 地盤加速度ではなく構造物の応答加速度を示す地図
設計用地震力は一般的に図 1 の設計用加速度応答スペクトル(日本のZRt C0 に相当)から計算される。世界的には、地震動による地盤面の最大加速度(図 1 の点 A)を与えている場合が多いが、構造物の応答加速度が地図上に示されている(これは日本で地震動の大きさではなくC0 を与えていることに類似している)。
(2) 2種類の地図上応答加速度
構造物に影響を及ぼす地震は、構造物の固有周期によって異なる。すなわち、低層建築物は小規模でも近くで起こる地震、高層・超高層建築物は遠くで起きても大規模の地震に影響される傾向がある。このため、応答スペクトルが一定の短周期部分を表す周期 0.2(s) の応答加速度SS(図 1 の点 B)と応答スペクトルが双曲線状に小さくなっていく部分を表す周期 1(s) の応答加速度 S1(図 1 の点 C)を表す 2 種類の地図がある(なお、SS は日本の大地震動時のZC0 に相当する)。
(3) 大地震動のみに対する設計
日本のように中地震動(稀(まれ)地震)と大地震動(極稀(ごくまれ)地震)という 2 種類の地震動ではなく、最大想定地震(再現期間 2500 年)に対して設計を行う(もっとも、実際の設計では地震力を 2/3 に低減している)。
(4) 設計用地震力の与え方
各階の地震力や地震層せん断力を直接求めるのではなく、ベースシヤ(1 階の層せん断力)を求め、それを各階に分配させる(日本ではAi 分布を用いて各階の層せん断力を求める)。
(5) 地震力の低減係数
最大考慮地震(再現期間 2500 年)を目標に設計を行うが、実際には(工学的判断によって)その値を 2/3 倍して設計に用いる(この場合の再現期間は 500 年程度と考えられる)。さらに、日本の構造特性係数Ds の逆数に相当する応答修正係数(Rファクター)は、最も粘りのあるラーメン構造ではR=8、すなわち設計の際には地震力を 1/8 に低減する。このため、米国内で地震活動の活発なカリフォルニア州でも設計用地震力は、日本の大地震動または安全限界の地震動(極稀地震)のほぼ 1/2 となる。
(6) 構造物の解析はすべて線形解析
日本では大地震動に対する検証には、プッシュオーバによる非線形(弾塑性)解析によって保有水平耐力を求めるが、米国では(非線形応答時刻歴解析法を除いて)線形(弾性)解析によって部材応力・変形などを求める。
以上の中で、日米最大の相違点と思われるのが (5) の RとDs である。設計に際して、地震力に対する強度を考慮することに異論はないが、構造的な粘り(靭性)をどのように考慮するかは難しい問題である。強度のみで抵抗する構造に対して、粘り(靭性)の最も大きい構造の場合、米国では 1/8、日本では 1/4 に設計用地震力を低減している。このような相違点は、以前から指摘されているが、今でも耐震設計上の大きな課題である。
*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2016.10 原稿