ちょっと真面目チョット皮肉 177
石山祐二*
2018 年 9 月 6 日未明に発生した北海道胆振東部(いぶりとうぶ)地震(マグニチュード 6.7)は北海道で初めて震度 7 を厚真(あつま)町で記録した。被害は表 1 に示す通りで、主な被害と原因は次のようになる。
(土砂崩れ)
死者のほとんどは地震動が引き起こした土砂崩れによって建物が押し潰されたことによる。その例が写真 1 で、手前の水田と上方の林の間、高さ数十m・長さ数百m に渡って土砂が崩れた。このような土砂崩れは数百箇所も発生し、その総面積 13.4 平方キロメートルは明治以降の日本で最大である。
土砂崩れを起こした斜面を見ると、表面は黒土で樹木も生い茂っているが、その下は約 4 万年前に支笏湖(しこつこ)をつくった大噴火や約 9 千年前の恵庭岳(えにわだけ)・樽前山(たるまえざん)の噴火による火山灰などで構成されている。その部分は地震前日に通過した台風の影響もあり水分を大量に含み、崩れやすくなっていたと推察されている。住宅が危険な場所に建設されていたのは、広い北海道でも平坦地をできる限り田畑に用いようとしたためである。
(大規模停電)
北海道では主力の苫東(とまとう)厚真火力発電所が地震によって緊急停止し、それが引き金となって他の発電所も連鎖的に停止し、北海道全域が停電となった。報道では、想定外の事象であったような印象を与える「ブラックアウト」といっている。しかし、周辺のほとんどの建物には大した被害がなかったのに、発電所で被害が生じたのは、その設計に問題があったと思われる。
停電は翌日に回復した地域もあったが、1 週間以上要した地域もあった。この間、空港の閉鎖、JR の不通、交通信号の停止、エレベータの停止、固定電話の不通など道民と道内の旅行者全員は大きな被害と不便を実感した。さらに、冷凍庫や冷蔵庫内の食品の廃棄、搾乳できずに乳房炎で多数の乳牛が死亡したことなど停電による被害は多岐にわたった。断水は、停電が原因の場合は電力とともに回復したが、水道管破損の場合は回復に数週間を要した。
(地盤の液状化)
地盤の液状化によって、例えば写真 2 のように多数の住宅が大きく傾斜するなどの被害を受けた。そのような宅地は川を埋め立てた所にあり、宅地造成に問題があったに違いない。しかし、造成は 40 年以上も前で、当時の関係者に損害を求めるのは難しいであろう。このため、個人財産である住宅の修復工事は個人負担が原則であるが、一部を公費から特別に補助すると報道されている。もっとも、その工事は早くとも春以降である。
札幌は自然災害の少ない場所であると思っている人は多いようであるが、大きな自然災害の再現期間は数百年~数千年以上である。2018 年は北海道命名 150 年であったが、この間の短い経験から自然災害に対して何となく「安全」と思うのは明らかな誤りである。
*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2019.1 原稿