ちょっと真面目チョット皮肉 No. 192
石山祐二*
建築物を含む構造物には種々の荷重が作用し、それによって支障が生じたり、場合によっては崩壊することもある。ここでは構造物が持つべき性能について考えてみよう。
建築基準法施行令第 88 条では、建築物に作用する荷重および外力として次のものを採用している。
1 号 固定荷重
2 号 積載荷重
3 号 積雪荷重
4 号 風圧力
5 号 地震力
これらの他、実況に応じて土圧、水圧、震動、衝撃による外力を採用する(この具体的な規定は定められていない)。
このような構造物に加わる力などを一般に「荷重」(load)と呼ぶが、温度や環境の変化・地盤の変動なども構造物に影響を及ぼすので、ISO(国際標準規格)やユーロコード(ヨーロッパの統一構造基準)では荷重より広い意味の「作用」(action)という用語を用いている。作用は(他にもあるが)次のように分類される。
1) 永続作用(ばらつきの小さな継続的作用)
2) 変動作用(大きさが時間的に変動する作用)
3) 偶発作用(発生確率は小さいが影響が大きな作用)
固定荷重は典型的な永続作用である。積載荷重・積雪荷重・風圧力・地震力などは変動作用である。偶発作用として航空機の衝突、ミサイル攻撃なども考えられる。また、雪が降らない地域では積雪荷重、台風や地震のない地域では風圧力・地震力を偶発作用と考えることもあるので、その分類は一律ではない。
上述の作用に対して建築物は単に破壊しないのみではなく、次のような性能が必要である。
i) 使用性(通常の使用状態で支障が生じない)
ii) 安全性(地震や台風に遭遇しても大きな支障が生じない)
iii) ロバスト性(予期しない状況に遭遇しても容易に崩壊しない)
使用性、安全性は分かるであろうが、「ロバスト性」(robustness)とは JIS A 3305「建築・土木構造物の信頼性に関する設計の一般原則」では「有害かつ予見できない事象(火災、爆発、衝撃など)又は人的過誤の結果に対し、元の原因から不釣合いな程度に被害を受けることなく耐えることができる構造物の能力」と定義されている。
ロバスト性が注目されるようになったのは「9.11 テロ事件」以降である。2001 年 9 月 11 日にテロリストが乗っ取ったジェット旅客機がニューヨークの世界貿易センター(WTC)ビルに衝突、火災が発生したこともあり、多くの人が避難中にビルが崩壊してしまった。これはロバスト性に欠けていたということになろう。
構造設計では、種々の作用に対して(日本の長期・短期のように)次の限界状態(それを超えると構造物が要求性能を満足できなくなる限界)を想定するのが一般的である。
a) 使用限界状態(通常の作用のみならず稀な作用に対して)
b) 終局限界状態(極めて稀な作用に対して)
これらの限界状態をめったに超過することがない(確率が許容値以下になる)ようにする設計法を「限界状態設計法」という。しかし、通常は偶発作用に対する具体的な規定はない。
偶発作用には、破壊を目的とした意図的な作用もある。2022 年ロシアの攻撃を受けたウクライナの高層住宅が(ミサイルが当たった周辺部分を除いて)残っている映像を見ると、構造体のロバスト性はあったのであろう。もっとも、爆風によって飛散したガラスや壁などをみると、構造体以外にもロバスト性があれば死傷者を少しは低減できたのではと思っている。
すべての偶発作用に対して、前もって構造設計を行うことは不可能で、構造物が本来持っている(であろう)ロバスト性に期待していることになる。「耐久性」・「耐火性」も重要で、何が起こるか分からない中、これらの面も含めた構造性能を高めなければと考えている。
* いしやまゆうじ北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2022.7 原稿