ちょっと真面目チョット皮肉 No. 198
石山祐二*
2023 年 9 月に UNESCO(ユネスコ)- IPRED(アイプレッド)会議がトルコのイスタンブール工科大学で開催された。IPRED とは 2007 年に始まった International Platform for Reducing Earthquake Disasters の略称で、日本では「建築・住宅地震防災国際プラットフォーム」と呼ばれている。メンバーは地震防災に関して日本が協力してきた国で、年 1 回の対面会議がコロナ禍で中断され、今回は久しぶりの対面会議であった。開催場所はメンバー国の持ち回りで、2023 年 2 月にトルコ地震が発生したため、トルコ開催となった。
会議の 1 日目はメンバー国(エルサルバドル、チリ、エジプト、インドネシア、カザフスタン、メキシコ、ペルー、ルーマニア、トルコ、日本)のみ参加し、各国からの報告があった。2 日目は 2023 年トルコ地震についての報告を中心に公開の国際シンポジウムが行われた。 3 日目は地震による被災地への視察が行われた。地震が発生してから半年以上も経過していたが、被災地には被害を受けた建物が多数残っており、期待以上の有益な情報を得ることができた。

トルコの建物の大部分は鉄筋コンクリート(RC)造の柱・梁・床で構成されるラーメン構造(写真 1)で、それに補強鉄筋などがない空洞煉瓦(れんが)で壁を造る工法である。この構造は地震時に柱・梁で構成される架構(これがラーメン構造)は変形する。それに比べて煉瓦の壁は柱・梁と同じように変形できず、地震時には壁にひび割れが生じ、地震動が大きくなると、壁は崩壊し瓦礫(がれき)となって落下してしまう(写真 2)。それでも、残りのラーメン構造が地震動に耐えることができれば、崩壊は免れるであろうが多くの建物は(日本に比べ細い柱・梁で)地震に耐え切れず崩壊してしまった。

今後の対策として、ラーメン構造の地震時の変形を小さくすることが最優先で、そのために煉瓦壁の代わりに RC 造の壁を設けることがベストであろう。これが耐震壁となり、地震力の大半を負担し、建物の変形は小さくなり、結果的に煉瓦壁の被害も小さくなる。
現在の世界中の耐震規定は建物の構造的な粘り(靱性(じんせい))に頼り過ぎていて、靱性の最も大きな構造は作用する地震力を 1/8(日本では 1/4)に低減している。このようなことを含め、今後大きな被害が生じないようにするには耐震規定の強化が必要であろう。また、耐震規定を守ることも重要で、(最新の)耐震規定を守らなくとも建設後に罰金を支払えば、(マンションなどを)合法的に売り出すことが可能な法制度にも問題がある。
2023 年は死者 10 万以上の関東大震災が起こってから丁度 100 年で、この間に日本の耐震構造は大きく発展した(それでも解決すべき問題点は多々残っている)。一方、トルコは共和国となってから丁度 100 年で、今でも民族的な対立を含め種々の問題を抱えており、安定した国・社会となってきたのは(現政権になってからの)直近 20 年程度のようである。このような状況を考えると、地震による死者が 5 万人を超えたことに対して「耐震規定に問題がある」といって非難するより、国内外の諸問題を少しでも早く解決し、平和でかつ(地震に対しても)安全・安心な国となることを期待している。
参考文献)内藤正典「トルコ-建国 100 年の自画像」岩波新書、2023.8.18
* いしやまゆうじ北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2024.1 原稿