ちょっと真面目チョット皮肉 165
石山祐二*
図 1 すべての柱が水平力を負担する構造
図 1 は建築物の平面を模式的に示している。日本では、一般にすべての柱には X, Y 方向に梁が剛に接合され、図 1 の柱■すべてが水平力(地震力や風圧力)F に抵抗するラーメン構造として設計する。しかし、米国では、特に鉄骨造の場合、柱と梁は水平力を負担させる部分のみを剛に接合し、その他はピン接合とするのが一般的である。例えば、図 2 では 1 通と 6 通の柱■のみが矢印の水平力 F に抵抗するとして設計することが多い(□は直交方向の水平力に抵抗する柱、○は床を支える柱である)。
図 2 水平力を負担する柱■とそれ以外の柱□と○
図 2 において、水平力 F が作用すると、その力は床スラブの面内力 S として伝達され、それに抵抗するのが 1 通と 6 通の柱である。このため、床は積載荷重を支える他に水平力を端部の柱まで伝達させるという重要な役割があり、これをダイヤフラムという。
図 3 ダイヤフラム 1、コード 2、コレクター 3
(構造壁 4、ダイヤフラムの幅 D、水平力 F、ダイヤフラムの
スパン L、左右端の変位 d1, d2、ダイヤフラムの変形 dd )
図 3 において、1 がダイヤフラムで、その幅 D が小さいと、水平力 F によってコード 2 には大きな引張力または圧縮力が作用する。柱と柱(壁の場合もある)の間は水平力を伝達する重要な部分となり、これがコレクター 3 である。米国では水平力を負担する部材(図 3では構造壁 4)まで水平力を伝達するために必要なダイヤフラム、コレクター、コードなどについて、日本にはない規定がある。日本では,すべての柱が水平力を負担するので,鉄筋コンクリート造の床がある場合には、水平力の伝達について特別な検討は不要である(鉄骨造体育館の屋根のような架構では、水平力の伝達について検討する必要がある)。
日米の以上のような差異は以前からの工学的慣習によっていると思われ、簡単に優劣は付けられない。日本の方が接合は複雑で建設費は高くなるが、構造的な粘りは大きくなる。逆に、米国の方が接合部は簡単で経済的であるが、構造的な粘りは小さいといえるであろう。
さて、2001 年にテロリストが乗っ取ったジェット旅客機がニューヨークの世界貿易センター( 110 階建、高さ 411m)に衝突した。その後、火災が発生し、このビルは 2 棟とも 1~2 時間後に完全に崩壊し、多数の人命が失われた。この構造は図 2 を超高層に利用したチューブ構造であった。航空機の衝突のような事象は、建築物の設計には考慮されないのが通常であるが、ISOの「構造物の信頼性に関する一般原則」の中では、通常は生じないような作用を偶発作用(accidental action)、想定外と思われることが起こっても容易には崩壊しない性能を構造健全性(structural integrity)といっている。人知の及ばない事象はこれからも起こり得る。構造物の設計には、(法令を守っても)経済性を優先するばかりでなく、構造健全性も忘れてはならないと思っている。
*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2016.4原稿