ちょっと真面目チョット皮肉 No.188
石山祐二*
1 階は店舗・駐車場、上の階は住宅・事務所のような建物は地震時に 1 階が崩壊する被害を受けることがある(写真 1)。この原因は、1 階には壁で仕切られていない広い空間が必要で、上階は壁によって小さな部屋に分割されていることが多く、上階の耐震性は高いが、1 階の耐震性は低いからである。
建物の耐震性が部分ごとに異なることを示す「不整形」、英語では(日本人には発音が難しい)”irregularity”(イレギュラリティ)という用語がある。不整形の意味は何となく分かるが、具体的にはどう示すのであろう。整形・不整形は立面的にも平面的にもあるが、ここでは立面的について説明する。
図 1 は水平方向に地震力 Pi を受ける 5 階建の建物の変形を示していて、図中の 1/200, 1/2000 は各階の水平変形をその階の高さで除した「層間変形角」である。a) は各階の層間変形角が同一で整形な建物、b) は 2 階以上に壁があるが 1 階には壁がない不整形な建物、c)は 5 階のみに壁がある建物である。
建築基準法の耐震規定では、層間変形角 1/ rs を用い、剛性率 Rs = rs / rs(r はrs の相加平均)によって不整形の度合いを表している。一部の階の変形が極端に大きくならない(地震被害がその階に集中しない)ように、各階の剛性率 Rs は 0.6 以上とする制限を設け、0.6を下回る階は図 2 に示す形状係数 Fs によってその階の保有水平耐力を割り増す規定である。
不整形の度合いを数値で示している点では、日本の規定は海外の規定よりも優れているが、以前から不満に思っている点がある。図 1 a) は整形で、すべての階で Rs = 1.0、Fs = 1.0 となる。b) は 1 階で Rs = 0.12、Fs = 1.8 となり、1 階のみ保有水平耐力を 1.8 倍に割り増す。これについては(1.8 が適切かどうかは分からないとしても)納得できる。しかし、c) の場合は 1~4 階で Rs = 0.36、Fs = 1.4 となり、最上階の剛性が大きいため、その下のすべての階の保有水平耐力を 1.4 倍する必要があり、これには納得できない。
この原因は、剛性の低い階の影響を考慮すべきなのに、剛性の高い階の影響を過大に評価しているからである。これを解決するためには、層間変形角の逆数rs ではなく、層間変形角 1/rs の相加平均を用い剛性率を求めるのみでよい。このようにすると、図 1 b) で Fs = 1.4、c) で Fs = 1.0 となり、納得できる値となる。
このようなことは新耐震施行直後から指摘されていたが、いまだ改正に至っていない。今となっては、rs は rs の「相加平均」という厳密な表現ではなく、単に「平均」となっているのであれば、相加平均の代わりに調和平均(逆数の相加平均の逆数)を用いることができ、この問題は上述のように解決する。このことを(40 年以上も前になるが)新耐震の原案作成時に指摘できなかったことを悔やんでいる。
* いしやまゆうじ北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2021.7 原稿