ちょっと真面目チョット皮肉167
石山祐二*
2016 年 3 月北海道新幹線として新青森と新函館北斗間の 149km が開通した(写真 1, 2)。これは単に新幹線が北海道まで延長されたのではない。新幹線規格で建設された青函トンネル(全長< 54km)に、ようやく新幹線が走るようになったのである。
青函トンネルの歴史を振り返ってみると、構想は戦前からあったが、具体的になったのは戦後で、地質調査が地上部では 1946(昭和 21)年、海底部では 1953(昭和 28)年に開始された。
1954(昭和 29)年に発生した洞爺丸台風(青函連絡船洞爺丸の遭難による犠牲者1,155 名他、死者・行方不明 1,430 名)により、建設計画が本格的になった。1963(昭和 38)年に試掘(しくつ)調査が着手され、その後 1964(昭和 39)年に発足した日本鉄道建設公団により工事が進められた。津軽海峡の深さ 140m の下 100m にある海底トンネルの掘削(くっさく)工事は容易ではなく、異常出水が 1969(昭和 44)年頃から度々発生し、工事計画が何度も見直された。 1987(昭和 62)年にようやく完成し、試掘調査の着手から数えると 25 年後の 1988(昭和 63)年に在来線として供用が開始された(これに伴い青函連絡船が廃止された)。
新幹線としては、2005(平成 17)年に新青森・新函館北斗間の工事が着工され、11 年後の2016(平成28)年に開通となったのである。長年の実績がある新幹線ではあるが、北海道新幹線には次のような問題がある。
青函トンネルを含む 82km の区間は在来線との共用で、新幹線が在来線の貨物列車とトンネル内ですれ違う際に、貨物列車のコンテナが風圧で転倒するおそれがある。このため、トンネル内では新幹線の時速は在来線並みの 140km となっている。
在来線と共用する区間はレールが 3 本ある三線軌条(さんせんきじょう)(図 1)となっている。新幹線用のレールの幅(軌間、ゲージ) は L1=1, 435mm(標準軌)で、その間に在来線用のレールがあり、その軌間は L2 = 1, 067mm(狭軌)である。その差は L3=368mm なので、隣接レールには十分な間隔があるように思える。しかし、レールの幅は下部で 145mm なので、2 本の隣接レールの間隔は L4=223mm となる。さらに、レールを取り付ける金物があるので、隣接レールの間隔は最小の箇所ではわずか 42mm である。この狭い部分に小さな金属片が入り 2 本のレールを電気的に結んでしまった。このため、信号システムが作動し、赤信号となり、新幹線が緊急停車したという予想できなかったトラブルが発生している。
冬期間には新たなトラブルが発生しないかと心配する人がいるかも知れないが、冬期・積雪については十分対処しているはずである。実際、他の新幹線にはない積雪に対する設備もあり、開通前に冬期間の試験走行も行っているので、多分大きな問題は生じないであろうと思っている。
最後に、青函トンネルは世界最長のトンネルであったが、2016 年6 月に開通したスイスのゴッタルドベーストンネル(全長 57km)が世界最長となった。それでも、青函トンネルは海底トンネルとしては世界一である。
*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」 2016.8 原稿