ちょっと真面目チョット皮肉 183
石山祐二*
「ブレーメン」と聞いてグリム童話の「ブレーメンの音楽隊」(図 1)を思い出す人は多いようである。年老いて飼い主から見捨てられそうになったり、食肉にされそうになったロバ、犬、猫、鶏がタウン・ミュージッシャンを目指して行こうとしたのがブレーメンである。彼らはブレーメンに着く前に泥棒達が宴をしている館を見つけ、四匹が重なって大きな怪物と思わせ、大きな鳴き声で泥棒達を驚かし、彼らが逃げた後に残されたご馳走で宴を楽しんだ。泥棒の一人は館に戻ってくるが、再度力を合わせて撃退し、その館で楽しく過ごしたというのが童話のあらすじである。
1800 年当時フランスの支配下にあったドイツで国家意識が高揚し始め、精神的遺産である民間伝承や英雄伝説を集める活動が始まった。そのような活動の一環としてグリム兄弟がドイツ各地から昔話を集め 1812 年に初版第 1 巻 86 編を出版した。その後、度々改訂され 1857 年に兄弟の生前最後の第 7 版が出された。それには 200 編と付録 10 編が含まれ、中には残酷な内容もあるが、子供向けに適切なものを選び、表現も子供向けにしたのがよく知られているグリム童話である。
音楽隊が目指したブレーメン市はドイツ北部にあり人口は約 55 万、北海に注ぐヴェーザー川に面している。港町としてはハンブルクに次ぐ大きさであるが、ドイツでは最も旧い港町で 10 世紀に開かれた。港町といっても北海から 65km も離れているため、海の匂いはまったくなく、清潔で落ち着いた街である。グリム兄弟が生まれたフランクフルト近くのハーナウから始まるメルヘン街道約600km の最後の街で、観光客も多い。旧市街地にある「ブレーメンの音楽隊の像」(図 2)の周辺にはいつも多くの観光客がいて、像のロバの足に触れると幸運が訪れるといわれているため、ロバの足はピカピカに光っている。
広場に面してゴシック建築の市庁舎と聖ペトリ大聖堂がある。市庁舎の地下には歴史的ワインレストランがあり、その近くに地元のベックス・ビールを気楽に楽しめるビストロもある。日本からの観光客は少ないようで、観光案内所で販売していた「ブレーメンの音楽隊」の絵本にはドイツ語、英語など中国語も含め数カ国語のものがあったが、日本語版はなかった。
さて、サッカー好きな人はドイツのプロサッカーリーグであるブンデスリーガ 1 部に所属している強剛チームとして「ブレーメン」のことを知っているであろう。ブンデスリーガには 1 部 18、2 部 18、3 部 20、合計 56のクラブが所属し、観客動員数は世界一である。総合スポーツクラブのヴェルダー・ブレーメンの中でサッカー部門が特に知られているが、ハンドボール、陸上競技、チェス、卓球、体操部門もある。1899 年にサッカー部門が創立され、近年は優勝から遠ざかっているがリーグ優勝4 回を成し遂げている。また、ブンデスリーガで初めて活躍した日本人プレーヤー「奥寺康彦」が 1981-86年に所属したクラブで、2018 年からは「大迫勇也」が所属している。
ブレーメンで 3 泊したが、建設材料機器などの展示会を見ることが目的であったため、旧市街地を見ることができたのはほんの数時間であった。いつものことながら、もう少し余裕があれば・・・と思って帰国したが、「少なくとも時間的には余裕のある生活をしたい」と思いながら定年から 15 年も経過してしまった。
*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2020.4 原稿