2017年2月20日

No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス

ちょっと真面目チョット皮肉 170 世界遺産シドニー・オペラハウス

石山祐二*

ISO(世界標準化機構) TC98(構造物の設計の基本を扱う技術委員会)の会議がオーストラリアで開催され、その際に世界遺産であるシドニー・オペラハウスを見てきた。この建物は 1957年の国際設計競技において 233件の応募の中から、当時は無名であったデンマークの建築家ヨーン・ウツソン( 1918~2008)の案が選ばれ、 1959年から建設が始まった。しかし、応募時に構造的な検討は充分されておらず、実現可能な形状・構造については実施設計の中で検討することになった。当初の建設費は 700万米ドル、建設期間は 4年程度であった。

写真 1 シドニー・オペラハウスの西面

しかし建設は大幅に遅れ、 1965年の選挙で州政府の顔ぶれが変わり、ウツソンの計画は保留となってしまった。このため、彼はオペラハウスの設計者を辞任し故国に戻ってしまったのである。結局、彼はその後一度もオーストラリアに戻ることがなく、完成したオペラハウスを直接見ることはなかった。

彼がオーストラリアを離れた後は、数人のオーストラリアの建築家に引き継がれ、ようやく 1973年にオペラハウスは完成した。建設期間は 14年、総工事費は 1億 200万ドルと当初の 14倍以上となった。

建設期間も建設費も大幅に増大したが、 2007年にオペラハウスは「人類の創造的才能を表現する傑作」として世界文化遺産となり、今ではシドニー最大の観光名所である。オペラハウスは設計者が存命中に世界遺産となった年代的に最新のものである。なお、オペラハウス設計の栄誉がたたえられ、ウツソンには、 2003年にシドニー大学から名誉博士号が授与されたが、高齢のためオーストラリアに来ることはできなかった。同時に、オーストラリアの勲章やシドニー市の鍵も授与された。晩年にはオペラハウスの内装の再デザインをウツソンが引き受けているので、オペラハウスを自ら見ることはなかったが、自分の作品に満足し、かつ愛していたに違いない。

写真 2 見る方向によって変化するオペラハウス

シドニー市内のシドニー港に突き出した岬ベネロング・ポイントにあるオペラハウスは帆に風を受けたヨットのように見える(写真 1)。建物に近づいて行くと、いくつもの曲線が複雑に重なり合いながら形状が変化していく(写真 2)。近くの植物園から見ると、オペラハウスは 3棟からなっていることが分かり(写真 3)左の小規模なレストラン棟、中央の最も大規模なコンサートホール棟、右のオペラ劇場棟がある。

写真 3  3棟よりなるオペラハウス

オペラハウスは周囲を歩いて一周することができ、見る位置・角度によって建物の形状がダイナミックに変化し、その構造なども部分的ではあるが間近で見ることができる。この構造については次回に紹介したいと思っている。


*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」 2017.2 原稿

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