2020年4月22日

No.182  フィリピンは破れ・日本は芋?!

ちょっと真面目チョット皮肉 182

石山祐二*

フィリピンでは多くの建物に日本のコンクリートブロック(CB)と同じようなCB が用いられているが、積み方は日本のような芋目地(いもめじ)ではなく破れ目地(やぶれめじ)である(図 1 )。日本の補強 CB 造は地震・台風・津波にも強靱で構造的な被害はほとんど生じない。しかし、フィリピンでは構造的には好ましい破れ目地なのに、地震や台風の度に大きな被害が生じている。

図 1  芋目地(左)と破れ目地(右)

最大の原因は CB の品質にある。大部分が簡便な小型手動式成形機を用い家内工業的に製造(バックヤード・マニファクチャラー)され、セメント量が少なく、低品質で低強度(指で力を加えると部分的に壊れてしまう程度)のものが多い。

補強鉄筋は入っているが適切に入っているとは限らない。CB の寸法精度も低く、縦横の目地モルタルの厚さは 3cm 以上が普通で、CB が積み上がった表面には凹凸が生じるので、厚さ 3cm 程度の下地モルタルを塗り、その上に塗装仕上げなどをしていることが多い。また、鉄筋の有無にかかわらず CB 自体の空洞と隣接する CB との間をすべて(コンクリートまたはモルタルの)グラウトで充填(じゅうてん)する。グラウトはプレミックスされた材料に水を加えて現場で作るが、この費用は CB 自体よりも高い。高価な材料を多く使っているのに、構造的には極めて脆弱なのがフィリピンの CB 造である。

このような課題に対して北海道建築技術協会は 2018年度から国土交通省の補助による住宅建築国際展開支援事業として「フィリピンにおける安全なブロック造技術の普及」を行っている。この中で、1) 高品質 CB の使用、2) 施工の簡素化、3) 施工期間の短縮を基本的な考え方とし、次のような提案を考えている。
提案 I は日本の補強 CB 造を改良し、床スラブを強化し臥梁を簡略にする工法である(図 2)。壁の交差部や端部の納まりを簡略化し、型枠を最小にする。床スラブは現場打ち RC スラブ、デッキスラブ、ハーフ PC などを選択できるようにする。また、CB の基礎も可能とし、施工の合理化を図る。

図 2  提案 I(日本の補強 CB 造を改良した工法)

提案 II は新しい CB(図 3 )を用い、破れ目地も芋目地も可能で、目地モルタルなしに CB を組積し、グラウトを後で充填することもできる工法である。CB の長手方向に少し傾斜した凹みを設け、上下の CB 間にずれ防止の円柱状のプラスチック製スプラインを挿入し、これを左右に移動させると面外の傾斜を修正することができる。

図 3  提案 II(新しい芋・破れ兼用 CB)

このような提案がフィリピンに定着し、建築物・住宅の安全性の向上、日比の関係強化、日本企業のビジネス展開などにも貢献できるようにと期待している。また、日本国内にも反映され、健全な CB 造の普及に寄与できるようにと願っている。


*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2020.1 原稿

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