2013年7月11日

No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展

ちょっと真面目チョット皮肉 148

石山祐二 *

「生誕100 年彫刻家佐藤忠良展」が札幌芸術の森美術館で開催された(写真1)。佐藤忠良(ちゅうりょう)は、1912 年宮城県に生まれ、6 歳の時に父親が亡くなり、1919 年に母親の実家の移転先である北海道夕張に転居した。小学生の頃から絵画に対する才能を発揮、1925 年に一人で札幌に移り札幌第二中学校(現・札幌西高)に入学し絵画部で活躍した。その後、北海道帝国大学(現・北海道大学)農学部を目指すが、芸術の通をあきらめきれず、1934 年22 歳で東京美術学校(現・東京芸術大学)彫刻科に入学し、1939 年27 歳で卒業した。

写真1  生誕100 年彫刻家佐藤忠良展
写真1  生誕100 年彫刻家佐藤忠良展

卒業後、新制作派協会彫刻部創立に参加、1944 年兵役に招集され、戦後1948 年までシベリアに抑留、帰国後活動を再開し、1954 年に第 1 回現代日本美術展佳作賞受賞、1960 年に第3 回高村光太郎賞受賞、1966 年に東京造形大学創立と共に教授に就任した。

1974 年には第15 回毎日芸術賞、芸術選奨文部大臣賞受賞、翌年には第6 回中原悌二郎賞受賞、第3 回長野市立野外彫刻賞受賞、1977 年に第5 回長野市立野外彫刻賞受賞、1981 年にはフランス国立ロダン美術館で日本人初の個展を開催した。1986 年に東京造形大学名誉教授、1989 年に朝日賞受賞、1990 年に宮城県美術館内に佐藤忠良記念館設立、1992 年に第41 回河北文化賞を受賞した。その後も活動を継続していたが、2012 年享年98 歳で逝去した。

彼の作品はどれも具象的で、彫刻に対する何の知識もない私でも、およそ100 点のブロンズ像をただ見るだけで彼の彫刻に対する真摯な態度と人間性を感じることができた。その他に、多くの絵画・絵本・書籍などの展示も、もちろん興味深かった。

友人・知人・家族の顔のブロンズ像も(数点の有名人の顔も)、個人個人の個性と経験がにじみ出ている感じがする。写真 1 には「帽子・夏」の一部が写っているが、作品全体を見ると帽子が空間に浮かんでいるような感じと、女性の美しさが表現されている。帽子をかぶった女性の作品は他にも数点あり、どれも彫刻としては比較的珍しく、ほぼ左右対称である。子供を扱った作品は、子供に対する彼の優しさと子供自身が楽しく遊んでいる様子がわき出てくるような感じがする。

彼の作品のほとんどは宮城県美術館(仙台市青葉区)にあり、札幌で展示された多くの作品は同美術館所蔵のものであった。彼の作品は全国的に設置・展示されているが、特に彼にとって第二の故郷である北海道には、札幌・旭川以外の市町村にも多くの彫刻があるので、彼の名前を知らない人でも彼の作品を見ている人は多いはずである。

また、彫刻家・佐藤忠良を知らなくとも、絵本などで彼を知っている人も多いであろう。ロシアの昔話「おおきなかぶ」の絵本(写真 2)はシベリア抑留の経験がなければ描くことができなかった作品である。彼がこの絵本を書くことになったのは、この絵を描くことができるのは彼の他にいないと信じて、出版社が依頼したからであるが、彼は依頼者の期待を(多分)はるかに超える挿絵を描いた。1962 年に出版されたこの絵本は、今では155 刷となり、どの書店の絵本コーナーにもあるベストセラーとなっている。

写真2  絵本「おおきなかぶ」の表紙
写真2  絵本「おおきなかぶ」の表紙

* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2013.6 掲載

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 No.176 幻の橋タウシュベツ川橋梁 No.177 広瀬隆著「原発時限爆弾」を読んで! No.178 2018 年北海道胆振東部地震とその被害 No.179 地震にも津波にも強いブロック造の現状と将来 No.180  ISO の地震荷重と日本・EU・米国との比較 No.181  日本・ペルー地震防災センターの国際シンポジウムに参加して No.182  フィリピンは破れ・日本は芋?! No.183  ブレーメンの音楽隊とサッカー No.184 時間の単位は「秒,分,時,日,月,年」,その次は? No.185  サッカーボールの形と構造の変化 No.186  円周率を最初に計算したのは? No.187  JIS A 3306 となった ISO 3010「構造物への地震作用」 No.188  建物の整形・不整形を表す剛性率 No.189 水道水が美味しいのはどこ? No.190 設計用地震力の分布を表す Ai の導き方 No.191 美味しかった食べ物とギリシャ文字 No.192 構造物のロバスト性 No.193 ラーメンvsトラスと2つの鉄塔 No.194 久しぶりの海外でコロナ感染! No.195 長さの単位と建築のモデュール No.196 関東大震災100年「大地震とその後の対策」 No. 197 北海道の「挽歌」と「石狩挽歌」 No.198 トルコ共和国建国100年と地震被害 No. 199 耐震性を向上させる強度と靱性、どちらも重要であるが・・・ No. 200 最終回の御礼 各種ダウンロード リンク
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