ちょっと真面目チョット皮肉 180
石山祐二*
ISO 3010 「構造物の設計の基本-構造物への地震作用(第 3 版)」 (2017 年 3 月)では、建物の i 階の終局限界状態(大地震動時)における設計用水平地震力 FE,u,iと設計用地震層せん断力 VE,u,i を次式のように与えており、設計にはいずれかの式を用いる。
ここで、 γE,u は信頼性に関する荷重係数(重要度係数)、kZ は地震危険度地域係数(日本の Z に相当)、kE,u は地震動強さ(大地震動の地盤震度で C0/2.5 に相当)、kS は地盤係数(日本では陽に規定されていない)、kD は靭性・許容変形・復元力特性・余剰強度
などによる構造設計係数(Ds に相当)、kR は基準化設計用応答スペクトル(2.5Rt に相当)、kF,i は地震力分布係数(限界耐力計算の Bi に相当)、kV,i は地震層せん断力分布係数(Ai に相当)、FG,j は j 階の重力による荷重(通常は固定荷重と積載荷重の和)、n は地上階数である。
以上の係数などを日本の建築基準法令、EU(Eurocode 8)、米国(IBC、ASCE 7)の基準と比較したのが表 1 で、若干の相違はあるが、「考え方」は同様である。「考え方」ではなく数値的に比較するのは容易ではないが、あえて行うと次のようになる。
すなわち、地震危険度の高い地域の硬質地盤に建設する靭性の高い整形な通常(重要度係数 1.0)の低層鉄筋コンクリート造建物について、設計に用いるベースシヤ( 1 階の層せん断力)係数を求めると次のようになる。
日本ではZ =1.0、C0 =1.0、Ds =0.3 となり、これらの積から 0.3 となるが、保有水平耐力を求める際に非線形解析を行うので(線形解析による水平耐力は保有水平耐力を求めると 2 割程度は増加すると仮定し)、線形解析を行う他の基準と比較する値としての日本のベースシヤ係数は 0.25~0.3 程度となる。
EU では地震動強さ ag = 0.4~0.5 (g)、地盤係数は S=1.15、応答倍率 2.5、構造設計係数は(q=4.5 に靭性の大きな場合 1.3 を乗ずる)1/q=1/(4.5 × 1.3)、これらの積からベースシヤ係数は 0.20~0.25 となる。
米国では SS=2.0、地盤係数は D 種地盤で Fa=1.0、設計用の低減係数 2/3、構造設計係数は 1/R = 1/8 となり、これらの積からベースシヤ係数は 0.17 となる。
以上より、設計用ベースシヤ係数は大きい方から日本の 0.25~0.3、EU の 0.20~0.25、米国の 0.17 となり、(数十年前よりは相違はかなり小さくなってきているが)まだ大きな相違がある。このような相違は、設計に用いる地震動の大きさの他に、構造設計係数(靭性・構造的な粘りなどによる低減係数)をどのように評価するかなどに起因する。
特に、米国では再現期間 2,500 年の大きな地震動を考慮しているが、設計に用いる際に 2/3 倍し(この再現期間は 500 年程度)、さらに靭性の高い構造では 1/8 に低減するので、結局この比較の中では最小の設計用ベースシヤ係数を用いていることになる。
ISO 3010 は日本の JIS として採用される予定で、その中で日本が長年培ってきた耐震技術を反映させるならば、(現在では海外で用いられることがほとんどない)日本の耐震規定が海外でも用いられる契機になるのではないかと期待している。
表 1 地震荷重を求める各種係数の比較
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- *1 大地震動の地盤震度(地盤の加速度/重力加速度)
- *2 短周期構造物の加速度応答倍率を 2.5 と仮定
- *3 C0= 1.0 の再現期間は(地域ごとに異なるが)500 年程度
- *4 設計には 2/3 倍して用いるので実質的には 500 年程度
- *5 Rt の双曲線部分から地盤係数を第 1 種地盤で 1.0 とすると第 2 種地盤で 1.5,第 3 種地盤で 2.0 となる。
*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2019.7 原稿