ちょっと真面目チョット皮肉 140
石山祐二 *
以前( 2006年 12月)、既存の建物を持ち上げ、その下に新たに階を増築する New Elm(ニューエルム:新増築)工法について紹介した(図 1参照)。増築部を車庫に用いると路上駐車が減り、ファミリールームとすると冬期の屋外活動が難しい寒冷積雪地では特に利用価値がある。さらに、増築階と既存部分の間に免震装置を設けると、(木造部分を補強しなくとも)耐震性が高くなる工法である。
図 1 New Elm(新しい増築)工法
さて、本誌(※「建築の研究」 2011年 10、12月)で東北工業大学客員教授の田中礼治氏は「東日本大震災報告」の中で、津波対策として 1階を鉄筋コンクリート造としその上に木造を載せる工法を提案している。そして、 1階部分を(駐車場などに用いる)オープンな空間となるピロティとすることで、津波が通り抜けるようにすることを推奨し、このような建物が津波被害を免れた例も紹介している。
このような建物は外国にもあり、例えば 2004年インドネシア・スマトラ島沖地震の際に大津波を受けた被災地の復興住宅としても採用されている(写真 1参照)。津波が通り抜けるためにはオープンな空間の方がよいが、発生頻度の低い津波のために、その空間を利用しないのはもったいない。実際、インドネシアの復興住宅の中には 1階部分に外壁を設けているものも多く見られた。
そこで、津波に対しては次善の策かも知れないが、 1階を鉄筋コンクリート造とし、その部分を車庫や居住空間として積極的に活用することを推奨したい。 1階が鉄筋コンクリート造であれば(浸水深さ数メートル程度の)津波には耐えられるであろう。雪国では 1階部分が雪に埋もれてしまっても、 2階の玄関から出入りができるような住宅が最近では多い(写真 2)。軟弱地盤でも、1階の鉄筋コンクリート造の床スラブ全体を基礎とすることによって、地盤の沈下や不同沈下を少なくする効果もある。さらに、免震構造とすることもできる。
(1階鉄筋コンクリート造、2・3階木造)
以上のように、メリットの多い工法を推進させるため、(技術的なことはほぼ解決されているので)法制面から次のような後押しを期待し、この工法が広まることを願っている。
* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2012.2掲載