ちょっと真面目チョット皮肉 No. 193
石山祐二*
「ラーメン」と「トラス」というと、建設関係の人はすぐに構造の形式であることが分かる。ラーメンとはドイツ語の Rahmen(額縁)が語源で、柱と梁(はり)が剛(ごう)に(角度を変えないように)接合されている構造である(このため英語で rigid frame ということもあるが moment resisting frame の方が適切である)。このため筋かいや耐震(たいしん)壁・耐力(たいりょく)壁がなくとも地震力や風圧力に抵抗でき、床が柱と梁のみで支持されているので、間仕切り壁を自由に設けることができる。このためオフィスビルやマンションのほとんどはラーメン構造である。
これに対して、トラス(truss)は細長い部材を三角形となるように組み合せた構造である。トラスの部材には圧縮力または引張力のみが作用するので、断面の小さな部材で大きな構造物を造ることができる。このため、塔や橋などに用いられることが多い。
写真 1 は小樽市にある高さ 14m の火の見櫓(やぐら)で、外見からトラス構造の鉄塔であることが分かる。この鉄塔は 1927 年に建設され、1986 年に町内会館の建て替えに伴い約 10m 移設された。火の見櫓は電話の 119 番通報で消防車が出動するようになり、全国的に取り壊されるようになった。これもいずれ解体される運命であったが、有志が「まもる会」を設立し、無償で譲り受け、今後の管理を引き受け、残すことに決まった(補修費・保存費などの問題は残っている)。
写真 2 は北海道 100 年記念事業として 1968 年に着工、1970 年に完成した札幌市厚別区にある高さ 100m の北海道百年記念塔である。当時の工事費約 5 億円の半分は道民からの寄付であった。実は、北海道(道庁と道議会)としては、この塔を解体すると決めている。その理由は、老朽化による錆片の落下が見られるようになり、2017 年に幅 0.4m、長さ 2m 程の鉄板が落下したこともあり、「安全性確保や将来の世代の負担軽減の観点から解体もやむを得ない」とのことである。
この塔の補修・維持費(今後 50 年間で約 30 億円)は莫大で、それを後世の道民に負担させるのは忍びないとのことである。しかし、落下した鉄板は最初から取り付けてあったものではなく、雨水を外部に導く水切り板で、完成後に取り付けたもので、その取り付け方が適切ではなかったことが原因である。
結局、多額の費用負担を嫌い、鉄板の落下を契機に、解体へと進んだと思われる。解体するにしても費用は約 6 億円と少額ではなく、この塔を残したいと思っている人も多いので、塔を残すことに解体費用を用いるがよいであろう。
この塔は、外から耐候性鋼板(たいこうせいこうはん)で覆われているので外観からは分からないが、トラス構造の鉄塔である。落下の危険性があるといわれているのは外装の鋼板など仕上げ部分のみで、2022 年の現地調査でも構造体は全く健全である。建設当初の状態で残すことが無理ならば、危険性がある外装部分を取り外すことも一案である。そのようにすると(テレビ塔のように)トラス構造が直接見えることになるが、塔の重量が小さくなり風圧を受ける面積も小さくなるので、地震に対しても台風に対しても安全性が大幅に向上する。
北海道と命名されて 100 年を記念し、道民の寄付を募り完成したものをわずか 50 年程で解体するのは忍びない。解体理由には費用の他に北海道百年記念塔というのは先住民族のアイヌに対する考慮がなされていないという意見もあるので、これを機会に適切な名称に変更すればよいと思っている。
* いしやまゆうじ北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2022.10 原稿