ちょっと真面目チョット皮肉
石山祐二*
オペラハウスの外観は帆に風を受けたヨットのように軽やかで、設計者のウツソンは薄い曲面版で構成されるシェル(貝殻のような)構造を考えていた。しかし、実施設計の中で、シェル構造では実現不可能となり、コンクリートの部材を組み合わせる構造となった。
その構造は写真 1 と建設時の写真 2 から推察されるように、基本的には図 1 左のような架構である。この架構が同じ形状・大きさで連続しているならば特に珍しくはない。しかし、側面は図 1 右のように頂部が曲線で、傾きが徐々に異なる個々の架構の幅は扇状に広がっている。
外壁の内側(写真 1 右)を見ると、架構は(肋骨のような)リブ付のコンクリート部材で構成されていることが分かる。この部材は図 1 のAからCまで同一ではなく、架構下部の断面は図2Aのように長方形(上方で幅の狭いT形)、架構中央部の断面は図2Bのように幅が広がっていくT形である。架構上部の断面は図 2 C のようにY形で、上面にはX形の筋かいが入っている(写真 2 左の架構上部に見える多数の四角形の開口には写真 2 右のようにX形の筋かいがある)。どの部材の幅も扇状となるように上方で広がっている。
以上のような部材で構成される構造は一体ではなく、図 2 のような長さ数メートルのプレキャスト・コンクリート部材として製作され、それらを現場でつなぎ合わせて全体が構成されている。すなわち、図 2 の断面に(模式的に描いた) о 印の孔に鋼線を通し、その鋼線を引っ張って(プレストレスを導入し)一体化する構造となっている。
構造全体が曲面で構成されているため、実際に製作するのは非常に難しい。このため、放物線からなる曲面をすべて同一の球面に変更した。これによって建設期間が(予定の 4年が 14年にもなってしまったが)大幅に短縮されたといわれている。なお、外壁には白色(一部は乳褐色)のタイルを貼った多数の(架構に沿った)球面状のコンクリート板が全面に取り付けられている。
この構造設計は英国の構造家オーヴ・アラップ(1895 ~1988)が担当し、これによって有名になった彼が創設したアラップ社は現在でも世界各国に事務所を持っている。ウツソンの案が選定されたのは米国で活躍したフィンランド人の建築家エーロ・サーリンネン(1910~1961)の推薦があったからで、世界遺産オペラハウスの功績者としてウツソンの他にサーリネンとアラップ、そしてシドニー市民の熱烈な支持があったことも忘れることはできない。
最後に、現在では(コンピュータや新材料の発達により)同一の球面ではなく(当初案のように)異なる曲面を用いた薄いシェル構造による建設が可能ではないかと思っているが、皆さんの考えはどうであろう。
*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」 2017.4 原稿