2019年12月12日

No.181  日本・ペルー地震防災センターの国際シンポジウムに参加して

ちょっと真面目チョット皮肉 181

石山祐二*

2019 年 8 月 21~23 日にペルー国立工科大学の日本・ペルー地震防災センター(スペイン語の頭文字から CISMID:シスミッドと略称)設立33 周年とその一部門である構造実験室(写真 1)の設立 30 周年を記念して国際シンポジウム「復興力のある都市を目指す建築物の工学的な改善策」が行われた。参加者は日本、ペルーの他にチリ、メキシコ、エルサルバドル、ドイツ、ユネスコからであった。CISMID に関することは、以前にも紹介したが再度説明したい。

1970 年 5 月 31 日に発生したペルー地震(M=7.7)では約 7 万人が犠牲となった。原因は建物などの崩壊の他に、南米第2 の高峰ワスカラン(6,768m)の頂上付近で氷河と岩石が崩落し、人口約 2 万のユンガイ市を一瞬にして厚さ 10m 以上の岩石・土砂で埋め尽くし、市民のほぼ全員が亡くなった。この地震を忘れないように CISMID の本館、構造実験棟、土質実験棟、講堂で囲まれている広場は「5 月 31 日広場」と呼ばれており、その中央にはペルー地震で落下してきた岩が置かれてある(写真 1)。

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写真 1  ペルー地震で落下した岩と構造実験棟

1970 年の地震を教訓に、再びこのような惨事を繰り返さないようにするため、日本の技術協力で CISMIDが設立された。この実現には、多くの関係者の熱意と努力があったからで、特に初代所長のフーリオ・クロイワ先生を忘れることはできない。日系 2 世の先生は、今でも筑波で行われている国際地震工学研修が建築研究所で行うようになった第 1 回(1961~62 年)の研修生である。そのことに対して先生はいつも感謝しており、我々と会った際には常にそのことを話し、(私自身は何もしなかったのに)何度もご馳走になったことがある。先生は、楽しみにしていたであろう記念の国際シンポジウムを目前に 2019 年 7 月に亡くなり、さぞ残念であったであろう。

国際シンポジウムの前日に、リマ郊外の山腹にある“Jardines de la Paz”「ハルディネス・デ・ラ・パス、平和の庭園」という墓地を訪れ花を手向けてきた(写真 2)。墓石はまだ仮のコンクリート製であったが、フーリオ・クロイワ・ホリウチ(1936.4.22~2019.7.9、ホリウチは母方の苗字)、その上には 2015 年に亡くなった奥様のグロリアさんの名前が書かれてあった。そして、写真 1 に写っている岩をクレーン車で吊り上げ、クロイワ先生が自ら指示し、水槽の中央にある台に設置した 30 年前のことを思い出しながら、先生を偲んだ。

写真 2  フーリオ・クロイワ・ホリウチ先生のお墓

CISMID 設立当初は日本の専門家数名が派遣されていて、私自身 1989~91 年に長期専門家として滞在した。当時は治安も悪く、停電や断水は日常茶飯事で、さらに年間インフレは 3,000% もあり、滞在した 2 年 3 ヶ月で物価が約 1,000 倍となったことを思い出す。さらに、私の帰国直後の 1991 年 7 月にテロ事件が起こり、日本から派遣されていた農業専門家 3 名が犠牲となり、日本の専門家全員が帰国することになった。その後、フジモリ政権の下で治安がよくなり、最近は物価も安定している。今回は 1 週間に満たない短い滞在であったが、安心してホテル近郊を歩いたり買い物もでき、この 30年間の変化を実感してきた。

これからも色々な活動が CISMID で活発に行われ、30 年以上前に日本の援助で設立された CISMID が国際協力活動の模範になって欲しいと思って帰国した次第である。


*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2019.10 原稿

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