2021年5月5日

No.187  JIS A 3306 となった ISO 3010「構造物への地震作用」

ちょっと真面目チョット皮肉No. 187

石山祐二*

ISO 3010「構造物の設計の基本-構造物への地震作用」は若干修正され 2020 年に日本産業規格 JIS A 3306「建築構造物の設計の基本-構造物への地震作用」(図 1)となった(日本工業規格の英語表示 Japanese Industrial Standard は変わらないが 2019 年から日本産業規格となっている)。

図 1  2020 年制定されたJIS A 3306 の表紙

地震作用の ISO は日本が主導的な立場で作業を行い原案を作成したが、これは各国から賛同を得ることができなかった。その後、大沢胖(ゆたか)(東京大学教授)がワーキンググループ(WG)の主査として作業を行い、次に松島豊(筑波大学教授)が主査を引き継ぎ 1988 年にようやく初版が発行された。

建設省建築研究所で新耐震設計法(新耐震)の作業を行っていた時に、当時同僚であった松島さんからタイプ書きの ISO 3010 の案について意見を求められたことがあったので、原案から初版までには 10 年以上も要したことになる。

ISO 3010 には 2 つの限界状態があり、その両方の検証を行い、構造物の安全性を確認することになっている。すなわち、(1)「使用限界状態」(SLS: Serviceability Limit State)は構造物の供用期間に数度は経験する中地震動に対して構造物はほぼ無傷であること、(2)「終局限界状態」(ULS: Ultimate Limit State)は極々稀に起こるかも知れない大地震動に対して構造物は損傷しても倒壊しないようにし、人命を守ろうとする考え方である。このように 2 段階の検証を行う設計法は日本の新耐震や限界耐力計算、ヨーロッパの構造基準であるユーロコードとほぼ一致している(なお、米国の基準では(2) のみを検証する規定である)。

使用限界状態で想定している中地震動に対しては、構造物は強度で耐えるように設計する。終局限界状態で想定している大地震動に対しては、構造物は強度のみでは耐えることができなくとも、構造物の粘り(靱性)によって耐えるように設計する。このために用いる構造設計係数 kD は日本の構造特性係数 Ds とほぼ同じものである。以上のように、日本の耐震設計法とほぼ同じ設計法となっている。

さて、 ISOの規格は(必ずしも守られてはいないが) 5 年ごとに見直すことになっていて、 ISO 3010 の改訂には私が主査を引き受けることになった。 e メールはなかった頃なので、原稿をワープロ(途中からパソコン)で作成し、各国のメンバーに印刷物で郵送し、印刷物で意見を交換しながら改訂案を作成し、 2001 年に第 2 版ができた。次の改訂も私が主査をすることになり、 2017 年に第 3 版ができた。この際には e メールを使うことができたので、作業は以前より大分楽であった。

さて、 3 年程前に ISO 3010 を JIS にする話が持ち上がり、 ISO 2394「構造物の信頼性に関する一般原則」と共に 2020 年に ISO 3010 は JIS となった次第である(個人的にはこの JIS 発行がお世話になった元 WG 主査お二人の故「ゆたか」先生への恩返しとなって欲しいと思っている)。 JIS になったからといって、建築基準法の体系には入っていないので、すぐに実際の設計に用いられることはない。しかし、これを契機に日本の耐震規定が国際的にも採用され易いように見直され、日本が長年培ってきた耐震構造技術が世界的にも活用されるようにと期待している。


* いしやまゆうじ北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2021.4 原稿

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