ちょっと真面目チョット皮肉 146
石山祐二 *
2012年 12月に中央自動車道の山梨県にある笹子トンネルで天井落下事故が発生し、 9名の方が亡くなった。トンネル内部の環境は建築物の内部とは比較にならないほど厳しいと思われ、 1977年に開通し 35年が経過しているので、事故原因の 1つは老朽化であろうことは想像できるが、もう少し考えてみよう。
トンネルの構造は図 1のようになっていて、天井板 Cは端部がトンネルの側壁に取り付けられている支持金物 Aで支えられ、中央は吊り棒 Dに接合されている(なお、天井板の上の空間は換気に用いるダクトとなっている)。吊り棒はトンネルの最上部に埋め込まれたアンカー Bに接合されていて、事故の原因はこのアンカーが抜け落ちたことによると報道されている。このアンカーはトンネル完成後に埋め込まれた「あと施工アンカー」と呼ばれるもので、コンクリートに(アンカー直径より少し大きな)穴を深さ 10数 cm開け、そこにアンカーを差し込み、接着剤で固定している(接着剤を用いない工法もある)。
事故後、天井板の取り付け方法を知って、アンカーの用い方に驚いた。アンカーに力が作用する場合は、図 2 a)のようにアンカーにせん断力が作用するように取り付けるのが原則で、図 2 b)のように引張力が作用するのは構造的に好ましくない。すなわち、接着剤が劣化しても、図 2 a)の場合はアンカーは外れ難いが、図 2 b)の場合はアンカーはすぐに抜け落ちるからである。建築物の耐震補強の場合でも、可能な限りアンカーには(引張力ではなく)せん断力が作用するようにアンカーを配置している。 35年以上前であっても、あと施工アンカーに引張力が常時作用するのは好ましくないことは分かっていたはずである。それなのに、常に引張力が作用する箇所に、あと施工アンカーを用いているので驚いたのである。
天井板を支える図 1の支持金物 Aのアンカーには主にせん断力が生じるが、中央で天井を吊るためには、どのようにしてもアンカー Bには引張力が生じてしまうので、やむを得ない構造のようにも思える。しかし、天井板を図 3 のように傾斜させると、左右の天井板が(アーチ構造のように)お互いに支え合う構造となる。その結果、例えアンカー Bが抜け落ちても、天井の重量は天井板内の圧縮力として端部 Aに伝達される好ましい構造となる。
結局、天井落下の最大原因は、アンカー Bが抜け落ちた場合には、どのような結果となるかを想定していなかったことにある。どんなに強靱な構造物であっても、作用する外力が想定以上に大きくなったり、長期間経過し老朽化が進むと、必ずいつかは崩壊する。構造物を設計する際には、「崩壊するとしたら、どの部分からどのようにして崩壊するのか」を想定し、たとえ崩壊しても急激な崩壊とはならないようにしておくのが重要である。東日本大震災の際に生じた種々の悲惨な状況を思い出しながら、「絶対安全ということは、絶対にあり得ない」ということをあらためて感じた次第である。
* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2013.2 原稿