ちょっと真面目チョット皮肉 No.189
石山祐二*
先日、ラジオで「故郷 N 県 M 市の(水道)水は美味しい」という視聴者の話を聞いた。水が美味しいかどうかは他の地で水を飲むと、その違いを感じることがある。私自身、生まれてから 25 年間は札幌に住んでいたので、その間に水の美味しさについて感じたことはなかった。1967(昭和 42)年に就職して東京(関東圏)に住むことになって、水が札幌ほど美味しくないと感じたが、その時は札幌ほど水が冷たくないからであろうと思っていた。
建築研究所は 1979(昭和 54)年に東京から筑波研究学園都市に移転した。移転当初は、水に匂いがあるように感じ、工事直後の水道管のせいだろうと思っていた。実際、多くの家庭で浄水器を使用していたが、間もなく水道水の匂いも消え、慣れもあり浄水器を用いなくなった。なお、最近では筑波の水を不味く感じることはなく、美味しくなったと感じている。
海外に行く機会が増え、水道水は飲めない国が多く、飲用の水を購入することになり、次第に水の味に関心を持つようになった。最初の海外出張は 1974(昭和 49)年カナダのバンクーバーで、ホテルで飲んだ蛇口からの水は冷たく非常に美味しく、今でも水道水の中で一番と思っている。この印象から、カナダの水道水は美味しいと思っていたが、1984(昭和 59)年から 1 年滞在した首都オタワの水はそれ程でもなかった。もっとも、海外では水道水を飲むことができるのは稀で、インドネシアや他の多くの東南アジアの国々では飲用不適である。ヨーロッパでも硬水のせいか水道水を飲むことを控え、飲用水を購入している人が多いので、私自身も水道水を飲むことを止めてしまった。
1989(平成元)年から 2 年程滞在した南米ペルーの首都リマでは水道水は飲めず、30 リットル位入った水を購入し、常時 10 本以上備蓄し、炊事や食器洗いにも用いていた。当時のリマでは水道水が飲める・飲めないというレベルではなく、断水が頻繁に起こり、水の出る間にシャワーを急いで済ませる習慣が身についてしまった。シャワーが終わるまで水が出るとは限らず、シャンプーの最中に断水し、戸惑ったこともあった。(なお、現在では断水はめったに起こらない。)
さて、ペルーから帰国して、間もなく北海道大学に出向し、学生との旅行で別名蝦夷(えぞ)富士と呼ばれる羊蹄山(ようていざん)の麓にある「ふきだし公園」に行った。そこでは冷たい飲むことのできる美味しい水がふんだんに湧き出していて、その光景に驚き・感激し、この水をリマに届けることができれば・・・と叶わぬことを感じた次第であった。
日本に住んでいると水の大切さをついつい忘れてしまうが、海外の研修生が日本から帰る際に何を持って帰りたいかを聞いたところ「水道の蛇口」と答えた話を思い出しながら、水の大切さを忘れないようにしたいと思っている。
表 1 に私の経験から個人的な水道水ランキングを示したが、まったくの独断である。特 A はバンクーバー、A は札幌、B はつくば、オタワ・・・で、D は飲用不適である。50 年近く前の経験も思い出しながら書いているので、現在では異なるかもしれない。ヨーロッパや他の国々では水道水を飲まなかったので、表に入れることができない。なお、日本各地の水道水は A または B に入ると思っている。
最後に、現在住んでいる(札幌市の南に接する)北広島市には水源がなく隣接する恵庭(えにわ)市から水道水を購入していて、(浄水施設を自前で建設する必要がない反面)水道料金はかなり高額である。しかし、漁川(いざりがわ)(石狩川水系の千歳川の支流)を水源としている水道水は常に(夏でも)冷たく美味しいので、高額な水道料金を(他に選択肢はないこともあり)納得している。
表 1 個人的な水道水ランキング
ランク | 国・都市名 |
特 A | カナダ・バンクーバー |
A | 北広島 札幌 |
B | 東京 つくば(現在) カナダ・オタワ |
C | 筑波(移転時) |
D (飲用不適) |
インドネシア・ジャカルタ ペルー・リマ |
* いしやまゆうじ北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2021.10 原稿