2011年5月15日

No.135 清潔で安全なシンガポール

ちょっと真面目チョット皮肉 135

石山祐二 *

インド、インドネシア、日本からのメンバー3 名がシンガポールで、2011 年3 月にノン・エンジニアド建物の耐震性を高めるガイドラインの改訂作業を行った (「建築の研究」2010 年4 月の本欄参照)。シンガポールを初めて訪れたので、その際に感じたことを述べてみたい。

シンガポールはマレー半島の南端の島が国土で、マレーシアとは橋で繋がっている。1965 年にマレーシアから独立したシンガポールの人口は約500 万人で、1990年代半ばに先進国となっている裕福な国である。

デパート、専門店が道の両側に並んでいるオーチャードロードは銀座やハワイのワイキキより広く活気が満ちている。道路はきれいに清掃されており、路上のゴミを見つけることが難しいくらいである。街を歩いていて不安を感じることはなく、犯罪が少ない安全な国である。もっとも、犯罪が全くない訳ではないので注意が必要とガイドブックには書いてある。

安全で清潔であることが主要産業の貿易・金融というビジネスにも観光にも直結しているので、色々な規制や罰則も厳しい。例えば、自転車に乗ったままでの通行が禁止されている地下道では、違反すると罰金が1000 ドル(約7 万円)である(写真1)。街や公園の中でペットを連れている人を全く見かけないし、もちろん犬の落とし物も見ることはない。この理由は、ペット類は自分の敷地内のみで飼育が許されているからである。

写真1  自転車の通行禁止、罰金千ドル
写真1  自転車の通行禁止、罰金千ドル

建物の外観は日本に比べてカラフルで、アルゼンチンのカミニートのように外壁をあざやかな色彩に塗り分けている場所もある。建物形状もいろいろで、構造的に整形な建物は少なく、どこかに不整形な部分がある。建物を耐震的にするためは、建物形状は整形な方が好ましいが、地震があまり起こらない当地では、そのようなことを全く考えている様子がない。それより、建物が直方体のような整形に見えても、どこかに変化を付け、あえて不整形にしている。

写真2  マリーナ・ベイ・サンズ・ホテル
写真2  マリーナ・ベイ・サンズ・ホテル

イギリス領時代の旧い建物もあり、また近代的な建物も多く、街を単に歩いているだけでも楽しい。2010 年にオープンしたマリーナ・ベイ・サンズ・ホテル(写真2)は遠く離れた所からも人目を引く。55 階建の3 棟の合計で2561 の客室があり、最上階にはサーフボートのような形状の屋上庭園が3 棟の上に乗っている。

写真3  ミニ・マーライオン(後方が建設中のホテル)
写真3  ミニ・マーライオン(後方が建設中のホテル)

最後に、有名なマーライオン像であるが、それを取り囲むように客室が一つのホテル(数ヶ月間使用する臨時的なもの)が建設中で見ることができなかった。その代わりにすぐ近くにあるミニ・マーライオン(写真3)の写真を撮っている観光客が多かった。シンガポールの名所であるマーライオンとスコールで閉鎖されていた屋上庭園を見ることができなかったので、次回の楽しみに残しておこうと思って帰国した。


* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2011.4掲載

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 No.176 幻の橋タウシュベツ川橋梁 No.177 広瀬隆著「原発時限爆弾」を読んで! No.178 2018 年北海道胆振東部地震とその被害 No.179 地震にも津波にも強いブロック造の現状と将来 No.180  ISO の地震荷重と日本・EU・米国との比較 No.181  日本・ペルー地震防災センターの国際シンポジウムに参加して No.182  フィリピンは破れ・日本は芋?! No.183  ブレーメンの音楽隊とサッカー No.184 時間の単位は「秒,分,時,日,月,年」,その次は? No.185  サッカーボールの形と構造の変化 No.186  円周率を最初に計算したのは? No.187  JIS A 3306 となった ISO 3010「構造物への地震作用」 No.188  建物の整形・不整形を表す剛性率 No.189 水道水が美味しいのはどこ? No.190 設計用地震力の分布を表す Ai の導き方 No.191 美味しかった食べ物とギリシャ文字 No.192 構造物のロバスト性 No.193 ラーメンvsトラスと2つの鉄塔 No.194 久しぶりの海外でコロナ感染! No.195 長さの単位と建築のモデュール No.196 関東大震災100年「大地震とその後の対策」 No. 197 北海道の「挽歌」と「石狩挽歌」 No.198 トルコ共和国建国100年と地震被害 No. 199 耐震性を向上させる強度と靱性、どちらも重要であるが・・・ No. 200 最終回の御礼 各種ダウンロード リンク
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