ちょっと真面目チョット皮肉 173
石山祐二*

建物の屋上に箱のようなものが見えることがある(写真参照)。これは通称「ハト小屋」と呼ばれ、建築の図面にもそう書いてあるので、本当に鳩を飼育すると思う人もいる。しかし、これは「屋上の屋根版を貫通して、突き出た配管を雨仕舞い(あまじまい)(建物の中に雨水が入らないようにすること)のために覆う小さな上屋」のことである。この他に建築や建設現場の用語には動物の名前が付いているものがあり、そのいくつかを紹介する。
「あて馬」(当て馬)予定の入札者の数をそろえるため、落札の希望がないにもかかわらず、入札者の中に加えられるもの。種馬となる牝馬の発情具合を確かめるためにあてがわれる牡馬が語源のようで、相手の様子をうかがうために仮に出してみるもの。選挙で「当て馬候補」という表現もある。
「あんこう」軒樋(のきどい)と縦樋(たてどい)をつなぐ「あんこう」型をした樋(の一部)のことで、「がん首」ともいう。
「犬釘」(いぬくぎ)レールを枕木(まくらぎ)に止める釘のこと(形状が犬の頭部に似ている)。「犬走り」(いぬばしり)建物の外壁に沿って軒下に砂利などを敷いた(犬が走る程度の)幅の狭い部分。柵・塀の外側に狭く残された土塁(どるい)上面も犬走りと呼ばれる。
「馬」持ち運びのできる架台、脚立、踏み台。
「かも居」(鴨居)建具の上部にある溝が付いている(敷居の上にある)横材。
「さばを読む」(鯖を読む)自分の利益になるように数量をごまかして多く(または少なく)いう。鯖は腐りやすいので、数えるときに急いで数え、数をごまかすことが多い。
「猿ばしご」丸太を踏み板とした簡単な垂直はしご。
「せみ」(蝉)ものを引き上げる際に用いる小型の滑車。
「千鳥」第 1列と第 2列をずらせること。例えば、防水工事でルーフィングの継ぎ目を互い違いに張ることを「千鳥張り」という。(建築とは関係がないが)「千鳥足」、「千鳥掛け」、「千鳥格子」という表現もある。
「とら」「とら綱」のことでタワーなどの工作物を支えるため、数方向に斜めに張って固定する綱。「弓とら」は障害物のためとら綱を所望の方向に張ることができない場合に、突っ張りを出して、とら綱をはること。
「とんび」(現在では滅多に見かけないが)杭打ちに用いるモンケン(杭打ち用の錘(おもり))をつり上げる工具。モンケンが所定の高さに達したとき、これを外して落下させ杭頭(くいとう)を打つようにする。
「猫車」(ねこぐるま)土砂などを運ぶ手押しの一輪車、「猫」と略することもある。猫車を通す板を敷いたものを「猫足場」という。英語に似た表現があり、 catwalk は工場や舞台の天井近くにある幅の狭い歩行(作業)通路である。なお、猫車は barrow または wheelbarrowという。
「蛇下がり」(へびさがり)樹木が落雷や凍裂(とおれつ)(樹木が凍って裂けること)によって縦に割れが生じ、それをふさぐように樹木が自ら成長した蛇のように見える部分。
「モンキー」ボルトを締める工具、モンキーレンチ、モンキースパナの略、くわえ口の大きさが自由に調整できるので、異なる径のボルトに用いることができる。
建築用語が一般的な用語になったり、またその逆もある。今では死語に近いものもあるが、趣のある用語は是非残って欲しいと思っている。なお、以上の用語は参考文献を参照したが、最近生まれたであろう「ハト小屋」は載っていない。
(参考文献)山崎正男著「新版・建設現場用語集」、三宝社、1974.1
*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2017.10 原稿