
2-10 無償の富を生かす器としての建築
自然エネルギーは、備えがなければ生命に関わる危険性を持ちながら、それなしには生きられない命の支えであり、しかも無償です。
豊かさとは、本当の必要に満たされていること、十分で有り余る状態を意味しますが、流通経済を経ずに手に入れる自然エネルギーに取り囲まれ、その無償の富を活用する器としての建築を所有できるのは、まさに豊かさそのものです。
自然エネルギーの活用は決して難しい技術ではありませんが、地域により、季節により、場所によって対応が違いますから、住み手の参加と生活の知恵がなければ建築的な工夫も生きてきません。
長い時間をかけて試行錯誤を繰り返し、地域独自の環境対応を発見してきたのが建築の伝統ですが、社会は今、人工エネルギーに依存し、自動化された装置に頼って思い通りに環境を制御する、インターナショナル化された建築に関心が寄せられる一方で、自分で工夫する大切な生活の知恵を失いつつあります。
自然エネルギーと建築との関わりは、太陽や風力による発電のような“利用”ではなく、その特性を生かす“活用”です。
建築の立場での自然エネルギー利用とは、その活用から生まれる建築の価値や環境保全とのかかわりを社会や居住者に知らせ、次の仕事につなぐことです。