
3-2 1次産業の環境整備に生かされなかった寒地建築技術の蓄積
土間は伝統民家の生活の中心でした。
蒸し暑い夏に一歩足を踏み入れるとスーッと汗が引く涼しさがあり、冬には陽射しを受けながら藁を打って縄や莚やわらじを編み、かまどがあって食事の準備や風呂を沸かし、気軽に農機具の修理や手入れまで出来ていた土間が、北海道の農家住宅から消えてしまったことにお気づきでしょうか。
大家族のそれぞれに役割があり、収穫物を加工し、生活の知恵を生かし、家族や隣人との情報交換をする気楽な交流の場でもありました。
もちろん、凍上で家が傾き、隙間風が吹き込む北海道の住宅に開放的な土間を引き継ぐのは耐え難いことで、縁側と共に見失われてしまったのも止むを得ないことですが、それに代わる作業場が波型鉄板一枚の鉄骨D型ハウスでは、作業や加工
の意欲だけではなく、自分で工夫をする生活の知恵さえも失われてしまいます。
相応の室温が保たれた作業空間の確保は、残念ながら生産効率を高める農業政策の補助金の対象にはならず、住生活の環境改善を求めた寒地住宅の知恵も、土間に象徴される1次産業の環境改善には生かされませんでした。
無償の自然エネルギーの有効活用は建築という器の役割ですが、その技術と知恵を1次産業の環境改善につなぐことを課題として考えてみたいと思います。