2-7 夜の光の演出
月は夜を代表する光です。日中はその存在さえ忘れられる光ですが、暗くなるとその穏やかさが輝きを増し、昼とは違った世界を演出してくれます。
眼はカメラ以上に素晴らしい器官で、1万ルックスを超える直射光下の照度から満月時の1ルックスを下回る照度までに順応する能力を持っていますが、特に暗い場所では瞳孔の絞り機能のほかに網膜の感度を変える生理的な順応が働くので、できるだけ光源のまぶしさを避け、目の感度を落とさずにものが見えるようにすることが省エネルギーにも通じる照明の要点です。
建物全体で極端に異なる照度や光の色のアンバランスを避けると共に、全体の光を暗さにあう暖色系とし、輝度の高い光が直接目に入る灯具の使用を避け、見せたい物や対象物を浮き立たせるようにすることが、眼に穏やかで、しかも省エネルギーにつながる夜の照、明です。
しかし、屋外から見た夜の光はまことに乱雑です。住宅地にも広がる情緒に欠ける水銀灯の街路照明、昼の光を求めた昼夜営業店の高光度照明、住戸毎に異なる集合住宅の窓から漏れる光の色、庭や植え込みに馴染まない街灯の光など、暗さの中
で美しさを演出する夜の光が見失われています。
月や星や蛍の光を楽しむ生活は、もう都会では無理なのでしょうか。