2026年8月27日

「夏の北海道で学ぶ放射冷房セミナー」実施報告

「夏の北海道で学ぶ放射冷房(風を起こさずラジエーターに水を循環させる冷房)セミナー」を8月21日(金)に、ピーエス株式会社 北海道支店 様の体感型ショールーム「PSマダガスカル」内会場にて実施しました。なかなか体感する機会の少ない「放射冷房」の空間を実際に体験しつつ、以下の三つのテーマについての講演と意見交換が行われました。

テーマ1:
「モンスーンアジア気候における除湿型放射冷暖房」~仕組みと活用事例~
講師 高成田 恵介 氏 ピーエス工業(株)イノベーショングループ ディレクター

テーマ2:
「基礎断熱と防蟻」
講師 平川 秀樹 氏 北海道科学大学 准教授

テーマ3:
「全館空調の本質」
講師 福島 明 氏 北海道科学大学 名誉教授

セミナーの様子

セミナー終了後に、ショールームと工場内を見学させていただきました。「森の中の工場」に併設された体感型ショールームということもあって、下の写真のように、周囲は手入れのされた樹木に取り囲まれています。左の建物がショールームですが、大きな窓を有しており、周囲の緑と一体感のある室内空間を体験できます。

PSマダガスカル外観と工場敷地全景

下の写真はショールーム内の様子ですが、大きな窓からの日照によって明るい室内空間となっています。当日は天気が良く、日差しも強かったのですが、周囲の樹木のおかげで、室内への直射日光はほどよく遮蔽されていました。これらの樹木は、単に窓からの眺望のみに配慮したものではなく、植栽による日射遮蔽を意識して、およそ50年前の建設当初から計画されていたということがよく分かる空間でもあります。写真の真ん中に写るルーバー状のものが、放射冷房のラジエーターになります。視界を遮らないので、ショールーム内の開放感を妨げず、しかもエアコンのような風や室内機の動作音がないので、室内の静寂性も妨げず、静かに、快適に冷房された空間でした。ラジエーター下部には結露水受けが設けられており、集められた結露水はドレンを通じて排出されます。

PSマダガスカル内

一般的に、冷房と言えば「エアコン」となりますが、エアコンによる冷房は、「涼しい風を作って室温を下げること」と認識して使用されている方が多いのではないかと思います。しかし、エアコン冷房の本質は「除湿」であり、涼しい風が出てくるのは、その副産物です。エアコン冷房の仕組みを簡単に説明すると、エアコン室内機に内蔵されている「ラジエーター」に冷たい液を流して冷却し、そこに室内空気を当てると結露するので、その結露によって除湿された空気を室内に戻す、結露水は屋外へ排出する、ということになります。涼しい風は、冷やしたラジエーターに室内空気を当てて除湿した結果として出てくるものなのです。

エアコンによる冷房を「強制対流冷房」と表現するなら、それに対して「放射冷房」は、本セミナーのサブタイトルにもあるように「風を起こさずラジエーターに水を循環させる冷房」となります。しかし、放射冷房においても、その本質は「除湿」にあります。ラジエーターで結露を生じさせて除湿するという仕組みは、エアコンと全く同じなのです。エアコンの場合は、室内機に内蔵できるラジエーターが小さく、しかも、ラジエーターフィンの密度も高くなるので、その分、ファン動力を用いて、強制的に空気を対流させて除湿する必要があります。しかし、ラジエーターが大きく、ラジエーターフィンの間隔も広くできる放射冷房の場合は、強制的に空気を対流させなくても、自然対流だけで十分に除湿が可能というわけです。さらに、大きなラジエーターは面的に熱を奪ってくれるので、例えば、地下室のような放射によるひんやり感を得ることができます。これら、ファン動力を用いなくても十分に除湿が可能で、面放射による冷涼感を得られることが、快適な冷房空間と豊かな静寂を実現する「放射冷房」の特長と言えるでしょう。

今年から、最高気温が 40℃以上の日を「酷暑日」と称することになりましたが、やはり40℃という温度が話題になるので、ニュースなどを見てても「暑さ対策=冷房で温度を下げる」と捉えられがちに思われます。しかし、先にも述べたように、冷房の本質は「除湿」です。代表的な暑さの指標である「WBGT」の算出式を見ると、気温(乾球温度)よりも、湿度(湿球温度)や放射(黒球温度)の影響のほうが、はるかに大きいことが分かります。中でも、湿度の影響は大きく、暑さへの対応としては湿球温度を下げること、つまり「除湿が重要」となるわけです。

https://www.wbgt.env.go.jp/doc_observation.php

セミナー終了後、本州からお越しの方を中心に、ピーエス株式会社 様のゲストハウス「PS Kハウス」に移動して、夕食および宿泊体験となりました。「PS Kハウス」は、およそ50年前のPS札幌工場建設と同時に、独身寮として建設された建物です。現在は、滞在型ショールーム的に運用されていますが、実際の生活環境により近い状況で「放射冷房」を体感することができます。

PS Kハウス

夕食は、PS Kハウスの庭にて、用意していただいたバーベキューとなりました。段取りいただいたピーエス工業(株)のみなさま、おいしいお肉をご準備いただき、ありがとうございました。

食事を取りつつ、お酒も入って、四方山話も、ここからが本番という感じでした。

四方山話には、いろいろな話題があったのですが、セミナーでの私(平川)の講演内容に関連する「蟻害」についても、いろいろなことをお聞きしました。蟻害というと、ネガティブかつセンシティブなところもあり、なかなか共有されることはないので、たいへん貴重な機会でした。当然、北海道よりも本州の方が、蟻害の経験者も多くいらっしゃるわけですが、地域や気候の違いなど、様々なケースはあるものの、やっておくべき防蟻対策はあると確信しましたので、今後、BISテキスト「北方型住宅の熱環境計画」の更新時には、基本的な防蟻対策を記載しようと思いました。

セミナーには、新建新聞社の方も取材に来られました。セミナーの内容や、セミナー前の取材時に福島先生が話された四方山話の一端も、「新建ハウジング」の記事として掲載されると思いますので、ぜひご覧になってください。

(平川)

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