2019年5月1日

No.179 地震にも津波にも強いブロック造の現状と将来

ちょっと真面目チョット皮肉 179

石山祐二*

補強コンクリートブロック(CB)造は、第二次世界大戦後に都市の不燃化と住宅不足解消のため、国として普及を進めた。火山灰を軽量骨材として利用できる北海道では1952 (昭 27)年に「北海道立ブロック建築指導所」を札幌市に設立した。その後「寒地建築研究所(寒研)」、「寒地住宅都市研究所」と名前を替え、これが旭川市にある「北方建築総合研究所(北総研)」である。

1953(昭 28)年には、北海道防寒住宅建設促進法(寒住法)が制定され、公的な資金を利用する住宅には簡易耐火構造以上の性能が要求されることになり、公営住宅や住宅金融公庫の融資住宅のほとんどがCB 造となった。全国的にもCB 造が多数建設され、ストックは 1973(昭 48)年に最大の約 76 万戸となった。現在のストックは約 1/3 となり、その半数以上は 1960(昭 35)~ 1980(昭 55)年に建設されたものである。

1970(昭 45)年以降は、金融公庫の融資が木造住宅にも適用されたため、CB 造の建設戸数は全国的に急減した。木材が比較的高価である沖縄では、CB 造と木造の価格差が小さく、木造には白蟻の被害もあるため、年間約 900 戸のCB 造の建設があり、全国最大である(ストックとしてのCB 造は北海道が最多である)。

CB 造の建設が減少した最大の原因はコストで、RC造や鉄骨造に比べると安価であるが、木造より高価である。ブロック自体は安価であるが、現場施工に時間を要し、最近はブロックを積む職人も不足し、木造との価格差は大きくなっている。

CB 造の構造規定が厳しく自由な設計が難しいが、このためCB 造の地震被害はほとんどない。2011 年東日本大震災でも、構造的な被害はほとんどなく、津波にも耐えることができた(もっとも、津波が浸入した内部の床・壁・天井など仕上げ材の被害は大きかった)。

写真1  津波に耐えたCB 造住宅(大船渡市赤崎)

写真 1 は、日本にも大きな被害を引き起こした 1960年チリ地震津波を体験した大工・三浦賢吉が「津波に耐えることができるのは木造ではなくCB 造である」と確信して建てた自宅である。彼は大船渡市赤崎に、多数のCB 造を建設し、東日本大震災による津波によって周囲のほとんどの木造は崩壊したが、彼の建てたCB造は津波に耐えた。1923 年生まれの三浦は 1990 年に亡くなったが、その後一人で住んでいた妻・千花野は大震災をこの家で経験した。2 階の天井数センチ下まで津波が浸入したが、夫が建てたCB 造のお陰で一命を取り留めることができた。

NPO 法人はこの住宅を「津波祈念館」として残すことにし、CB 造の祈念碑がその前に建てられた(写真 2)。将来は、市が管理して欲しいと考えているようであるが、市にはそのような計画はない。この建物は、津波被害のため「すべての住宅を撤去し住宅の建設を禁止する」と市が決めた区画からほんの少し離れているため、津波を受けた当時の状態で取り壊されず残っているが、今後どうなるかは不明である。

写真2  CB 造の大船渡津波祈念館の碑

CB 造は地震にも津波にも強く優れた構造・工法であるが、最近ほとんど建てられていない。もっとも、デザイン的にも優れ、外断熱工法を用い極寒も猛暑も快適に過ごせるCB 造も建設されている。これからは、設計の自由度も考え、デザイン的にも価格的にも魅力的なCB 造が可能となるように構造規定などが見直され、そのメリットを活かした多数のCB 造が建設されることを期待している。

 


*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2019.4 原稿

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