2019年2月11日

No.178 2018 年北海道胆振東部地震とその被害

ちょっと真面目チョット皮肉 177

石山祐二*

2018 年 9 月 6 日未明に発生した北海道胆振東部(いぶりとうぶ)地震(マグニチュード 6.7)は北海道で初めて震度 7 を厚真(あつま)町で記録した。被害は表 1 に示す通りで、主な被害と原因は次のようになる。

(土砂崩れ)

死者のほとんどは地震動が引き起こした土砂崩れによって建物が押し潰されたことによる。その例が写真 1 で、手前の水田と上方の林の間、高さ数十m・長さ数百m に渡って土砂が崩れた。このような土砂崩れは数百箇所も発生し、その総面積 13.4 平方キロメートルは明治以降の日本で最大である。

写真 1  多数発生した斜面崩壊(厚真町)

土砂崩れを起こした斜面を見ると、表面は黒土で樹木も生い茂っているが、その下は約 4 万年前に支笏湖(しこつこ)をつくった大噴火や約 9 千年前の恵庭岳(えにわだけ)・樽前山(たるまえざん)の噴火による火山灰などで構成されている。その部分は地震前日に通過した台風の影響もあり水分を大量に含み、崩れやすくなっていたと推察されている。住宅が危険な場所に建設されていたのは、広い北海道でも平坦地をできる限り田畑に用いようとしたためである。

(大規模停電)

北海道では主力の苫東(とまとう)厚真火力発電所が地震によって緊急停止し、それが引き金となって他の発電所も連鎖的に停止し、北海道全域が停電となった。報道では、想定外の事象であったような印象を与える「ブラックアウト」といっている。しかし、周辺のほとんどの建物には大した被害がなかったのに、発電所で被害が生じたのは、その設計に問題があったと思われる。

停電は翌日に回復した地域もあったが、1 週間以上要した地域もあった。この間、空港の閉鎖、JR の不通、交通信号の停止、エレベータの停止、固定電話の不通など道民と道内の旅行者全員は大きな被害と不便を実感した。さらに、冷凍庫や冷蔵庫内の食品の廃棄、搾乳できずに乳房炎で多数の乳牛が死亡したことなど停電による被害は多岐にわたった。断水は、停電が原因の場合は電力とともに回復したが、水道管破損の場合は回復に数週間を要した。

(地盤の液状化)

地盤の液状化によって、例えば写真 2 のように多数の住宅が大きく傾斜するなどの被害を受けた。そのような宅地は川を埋め立てた所にあり、宅地造成に問題があったに違いない。しかし、造成は 40 年以上も前で、当時の関係者に損害を求めるのは難しいであろう。このため、個人財産である住宅の修復工事は個人負担が原則であるが、一部を公費から特別に補助すると報道されている。もっとも、その工事は早くとも春以降である。

写真2  地盤の液状化によって傾斜した住宅(札幌市清田区)

札幌は自然災害の少ない場所であると思っている人は多いようであるが、大きな自然災害の再現期間は数百年~数千年以上である。2018 年は北海道命名 150 年であったが、この間の短い経験から自然災害に対して何となく「安全」と思うのは明らかな誤りである。

 


*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2019.1 原稿

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) もくじ(クリック→目次ページへ) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 No.176 幻の橋タウシュベツ川橋梁 No.177 広瀬隆著「原発時限爆弾」を読んで! No.178 2018 年北海道胆振東部地震とその被害 No.179 地震にも津波にも強いブロック造の現状と将来 リンク
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