2017年11月1日

No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」

ちょっと真面目チョット皮肉 173

石山祐二*

写真 ビルの屋上の「ハト小屋」

建物の屋上に箱のようなものが見えることがある(写真参照)。これは通称「ハト小屋」と呼ばれ、建築の図面にもそう書いてあるので、本当に鳩を飼育すると思う人もいる。しかし、これは「屋上の屋根版を貫通して、突き出た配管を雨仕舞い(あまじまい)(建物の中に雨水が入らないようにすること)のために覆う小さな上屋」のことである。この他に建築や建設現場の用語には動物の名前が付いているものがあり、そのいくつかを紹介する。

あて馬」(当て馬)予定の入札者の数をそろえるため、落札の希望がないにもかかわらず、入札者の中に加えられるもの。種馬となる牝馬の発情具合を確かめるためにあてがわれる牡馬が語源のようで、相手の様子をうかがうために仮に出してみるもの。選挙で「当て馬候補」という表現もある。

あんこう」軒樋(のきどい)と縦樋(たてどい)をつなぐ「あんこう」型をした樋(の一部)のことで、「がん首」ともいう。

犬釘」(いぬくぎ)レールを枕木(まくらぎ)に止める釘のこと(形状が犬の頭部に似ている)。「犬走り」(いぬばしり)建物の外壁に沿って軒下に砂利などを敷いた(犬が走る程度の)幅の狭い部分。柵・塀の外側に狭く残された土塁(どるい)上面も犬走りと呼ばれる。

」持ち運びのできる架台、脚立、踏み台。

かも居」(鴨居)建具の上部にある溝が付いている(敷居の上にある)横材。

さばを読む」(鯖を読む)自分の利益になるように数量をごまかして多く(または少なく)いう。鯖は腐りやすいので、数えるときに急いで数え、数をごまかすことが多い。

猿ばしご」丸太を踏み板とした簡単な垂直はしご。

せみ」(蝉)ものを引き上げる際に用いる小型の滑車。

千鳥」第 1列と第 2列をずらせること。例えば、防水工事でルーフィングの継ぎ目を互い違いに張ることを「千鳥張り」という。(建築とは関係がないが)「千鳥足」、「千鳥掛け」、「千鳥格子」という表現もある。

とら」「とら綱」のことでタワーなどの工作物を支えるため、数方向に斜めに張って固定する綱。「弓とら」は障害物のためとら綱を所望の方向に張ることができない場合に、突っ張りを出して、とら綱をはること。

とんび」(現在では滅多に見かけないが)杭打ちに用いるモンケン(杭打ち用の錘(おもり))をつり上げる工具。モンケンが所定の高さに達したとき、これを外して落下させ杭頭(くいとう)を打つようにする。

猫車」(ねこぐるま)土砂などを運ぶ手押しの一輪車、「猫」と略することもある。猫車を通す板を敷いたものを「猫足場」という。英語に似た表現があり、 catwalk は工場や舞台の天井近くにある幅の狭い歩行(作業)通路である。なお、猫車は barrow または wheelbarrowという。

蛇下がり」(へびさがり)樹木が落雷や凍裂(とおれつ)(樹木が凍って裂けること)によって縦に割れが生じ、それをふさぐように樹木が自ら成長した蛇のように見える部分。

モンキー」ボルトを締める工具、モンキーレンチ、モンキースパナの略、くわえ口の大きさが自由に調整できるので、異なる径のボルトに用いることができる。

建築用語が一般的な用語になったり、またその逆もある。今では死語に近いものもあるが、趣のある用語は是非残って欲しいと思っている。なお、以上の用語は参考文献を参照したが、最近生まれたであろう「ハト小屋」は載っていない。

(参考文献)山崎正男著「新版・建設現場用語集」、三宝社、1974.1


*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2017.10 原稿

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 No.176 幻の橋タウシュベツ川橋梁 No.177 広瀬隆著「原発時限爆弾」を読んで! No.178 2018 年北海道胆振東部地震とその被害 No.179 地震にも津波にも強いブロック造の現状と将来 No.180  ISO の地震荷重と日本・EU・米国との比較 No.181  日本・ペルー地震防災センターの国際シンポジウムに参加して No.182  フィリピンは破れ・日本は芋?! No.183  ブレーメンの音楽隊とサッカー No.184 時間の単位は「秒,分,時,日,月,年」,その次は? No.185  サッカーボールの形と構造の変化 No.186  円周率を最初に計算したのは? No.187  JIS A 3306 となった ISO 3010「構造物への地震作用」 No.188  建物の整形・不整形を表す剛性率 No.189 水道水が美味しいのはどこ? No.190 設計用地震力の分布を表す Ai の導き方 No.191 美味しかった食べ物とギリシャ文字 No.192 構造物のロバスト性 No.193 ラーメンvsトラスと2つの鉄塔 No.194 久しぶりの海外でコロナ感染! No.195 長さの単位と建築のモデュール No.196 関東大震災100年「大地震とその後の対策」 No. 197 北海道の「挽歌」と「石狩挽歌」 No.198 トルコ共和国建国100年と地震被害 各種ダウンロード リンク
一般社団法人 北海道建築技術協会
〒060-0042
札幌市中央区大通西5丁目11
大五ビル2階
アクセス
TEL (011)251-2794
FAX (011)251-2800
▲ ページのトップへ