2017年4月29日

No.171 シドニー・オペラハウスの構造

ちょっと真面目チョット皮肉

石山祐二*

オペラハウスの外観は帆に風を受けたヨットのように軽やかで、設計者のウツソンは薄い曲面版で構成されるシェル(貝殻のような)構造を考えていた。しかし、実施設計の中で、シェル構造では実現不可能となり、コンクリートの部材を組み合わせる構造となった。

写真1 コンサートホール棟とその外壁の内側
写真 2 建設中の写真

その構造は写真 1 と建設時の写真 2 から推察されるように、基本的には図 1 左のような架構である。この架構が同じ形状・大きさで連続しているならば特に珍しくはない。しかし、側面は図 1 右のように頂部が曲線で、傾きが徐々に異なる個々の架構の幅は扇状に広がっている。

図 1 架構の模式図

外壁の内側(写真 1 右)を見ると、架構は(肋骨のような)リブ付のコンクリート部材で構成されていることが分かる。この部材は図 1 のAからCまで同一ではなく、架構下部の断面は図2Aのように長方形(上方で幅の狭いT形)、架構中央部の断面は図2Bのように幅が広がっていくT形である。架構上部の断面は図 2 C のようにY形で、上面にはX形の筋かいが入っている(写真 2 左の架構上部に見える多数の四角形の開口には写真 2 右のようにX形の筋かいがある)。どの部材の幅も扇状となるように上方で広がっている。

図 2 架構を構成する部材の立面(上)と断面(下)

 

以上のような部材で構成される構造は一体ではなく、図 2 のような長さ数メートルのプレキャスト・コンクリート部材として製作され、それらを現場でつなぎ合わせて全体が構成されている。すなわち、図 2 の断面に(模式的に描いた) о 印の孔に鋼線を通し、その鋼線を引っ張って(プレストレスを導入し)一体化する構造となっている。

構造全体が曲面で構成されているため、実際に製作するのは非常に難しい。このため、放物線からなる曲面をすべて同一の球面に変更した。これによって建設期間が(予定の 4年が 14年にもなってしまったが)大幅に短縮されたといわれている。なお、外壁には白色(一部は乳褐色)のタイルを貼った多数の(架構に沿った)球面状のコンクリート板が全面に取り付けられている。

この構造設計は英国の構造家オーヴ・アラップ(1895 ~1988)が担当し、これによって有名になった彼が創設したアラップ社は現在でも世界各国に事務所を持っている。ウツソンの案が選定されたのは米国で活躍したフィンランド人の建築家エーロ・サーリンネン(1910~1961)の推薦があったからで、世界遺産オペラハウスの功績者としてウツソンの他にサーリネンとアラップ、そしてシドニー市民の熱烈な支持があったことも忘れることはできない。

最後に、現在では(コンピュータや新材料の発達により)同一の球面ではなく(当初案のように)異なる曲面を用いた薄いシェル構造による建設が可能ではないかと思っているが、皆さんの考えはどうであろう。


*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」 2017.4 原稿

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) もくじ(クリック→目次ページへ) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 No.176 幻の橋タウシュベツ川橋梁 リンク
一般社団法人 北海道建築技術協会
〒060-0042
札幌市中央区大通西5丁目11
大五ビル2階
アクセス
TEL (011)251-2794
FAX (011)251-2800
▲ ページのトップへ