2016年2月27日

No.164 地すべりと雪の上の足跡

ちょっと真面目チョット皮肉 164

石山祐二*

中国深センで地すべり(「地滑り」ではなく「地辷り」と書くが、当用漢字ではないため「地すべり」と学会では表記している)が発生し、多くの人命が失われた。原因は、不法に残土を捨て、それが高くなり、地すべりが起こったようである。

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図1 地すべりのメカニズム(円弧すべり)

地すべりは図 1 のように円弧面で起こる場合が多い。地すべりが起こる(であろう) A の重量 W によって円弧面には,すべりを起こすようなせん断力 τ(タウ)が作用し、それに抵抗するのが地盤の粘着力や摩擦によるせん断強さ s である。簡単にいうと、τs を超えると地すべりが生じる。

すべり面を円弧と考え,円弧の中心を O、半径を r、O と A の重心 G との水平距離を d とし、O に対するモーメントを考えると、次式が地すべりの起こる条件となる(s はすべり面についてのせん断強さ s の総和である)。

W d < r ∑ s       (1)

式は簡単であるが、すべり面は事前に分からないので、図の円弧を多数仮定する必要がある。また、地盤は一様でない上に、豪雨や長雨によって地盤が緩んで s が小さくなり、すべり易くなったり、地震力によって地すべりが引き起こされることもあるので、地すべりを事前に予測するのは難しい。

さて、このようなことを考えているうちに、雪の上に足跡ができる際にも同じような現象が起こることに気が付いた。 雪の上を歩くと、雪が潰される音が聞こえ、この音は気温によって異なる。一般的には気温が低くなるにつれ、乾いた感じの音となる。また、雪の上の足跡も雪質、積雪深、気温などによって異なる。

足跡ができる様子を図 2 のように考えると、靴 B が a) から b) となる際に、雪が圧縮され音が出る。この音は、気温があまり低くないうちは「ぐぅ」と聞こえ、気温が低くなるにつれ「ぎゅ」となる。気温がさらに低下しマイナス 10 ℃くらいになると、「きゅっ」と聞こえるようになり、そして次の一歩を踏み出す際には「キュッ」とさらに乾いた感じの音が出るようになる。

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図 2  雪の上に足跡ができるメカニズム
(靴 B が雪を押し固め、次の一歩を踏み出す際に雪 A を掻き出す)

すなわち、次の一歩を踏み出す際には c) のように靴底の前半分に体重が移り、さらに次の一歩に移る際に d) のように靴底の雪が掻き出され、この際に「キュッ」と聞こえる。「キュッ」という音が聞こえた足跡を見ると、靴底の半分くらいの大きさで縦断面が半円状の雪 A が残っていることに気が付く。もちろん、このようになるのは、規模も材質も異なるが図 1 と同様の現象で、せん断力による雪の破壊である。

もっとも積雪が少ない場合や気温が低くない場合には、図 2 d) のような現象は生じない。それでも,雪道を歩く際の音から気温を推定することができるであろう。また、自然とリズミカルに歩きたくなる雪道で、一歩ごとに「キュッ」「キュッ」「キュッ」という音が出た際には、足跡を確認して欲しい。雪のせん断破壊を目で見ることができるはずで、このようなことも、雪国で生活する楽しさの一つである。


*いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(一社)建築研究振興協会発行「建築の研究」2016.2原稿

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