2014年12月23日

No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所

ちょっと真面目チョット皮肉 157

石山祐二 *

JR 北海道の函館本線の 余市(よいち)駅から(リタ・ロードと呼ばれる)駅前通りを歩いて行くと 5 分程で、ニッカウイスキー余市蒸留所に着く。ここは、 竹鶴 政孝(たけつるまさたか)( 1894 ~ 1979 )が 1918 年から 2 年間スコットランドでウイスキーの製造を学んできた後に、日本のウイスキー造りの理想郷として選んだ所である。 NHK の連続ドラマ「マッサン」で有名となったので説明は不要かも知れないが、政孝がマッサンでスコットランド人伴侶の愛称がリタである。

政孝は 1934 年にウイスキー造りをここで開始し、念願のウイスキー第 1 号は 1940 年にできあがった。この間にリンゴジュースの製造などを手掛けたため、設立当初の社名は「大日本果汁株式会社」であった。この「日」と「果」がニッカという名前の由来である。

cyot157_img_0写真 1 余市蒸留所の正門

登録有形文化財に認定されている 1942 年に建設された蒸留所の正門は、ほぼ左右対称(写真 1)である。アーチ型の正門をくぐると目の前に麦芽を乾燥させるキルン棟(写真 2 )があり、それに連なってウイスキーの製造工程に従い、組積造の建物が機能的に並んでいる。赤く塗られた三角屋根と灰褐色の壁のあざやかな対比は、構内の樹木と調和して美しく、(私自身は見たことはないが)スコットランドの施設に似ているのではと想像させられる。建物の構造は木骨石造で、壁は組積造、2 階の床組と小屋組は木造である。組積造の壁は支笏湖のカルデラができた約 3 万 5 千年前の噴火で火砕流が固まってできた札幌軟石である。

cyot157_img_1写真 2 正門をくぐると見えるキルン棟

約 16ha の敷地内には、ウイスキー製造のための施設の他に、博物館、旧竹鶴邸、直売店、試飲ができる会館など 50 棟以上の建物があり、年末年始を除いて年中無休である。試飲会場には、無料のウイスキー、その他にアルコールを飲めない人やドライバーにはリンゴジュースなどが用意されている。博物館の中のパブでは、有料ではあるが有名な国際団体から賞を受けたウイスキーなども味わうことができる。

製造施設の中の一つがポットスチル(写真 3)である。これは銅製の巨大な(化学実験に用いる)フラスコのようなもので、大麦の麦汁に酵母を加えてできた発酵液を加熱し、気体となった香味とアルコールを蒸留し、これを 2回繰り返すと透明な原酒となる。この原酒をオーク材の樽の中に入れて、待つこと数年、ようやく熟成した 琥珀こはく色のモルトウイスキーができる。この間に樽の中の原酒は約半分に減ってしまい、これをエンジェル(天使)への分け前といっている。

最後に、写真 3 のポットスチルにはしめ縄が張られている。最初は、スコットランド発祥のウイスキーなのに、何故しめ縄があるのかと不思議に思ったが、政孝の生家は広島の造り酒屋で、その慣習を当初から引き継いでるとの説明を聞き、納得した次第であった。

cyot157_img_2写真 3  しめ縄が張ってあるポットスチル」


* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2014.12 掲載

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) もくじ(クリック→目次ページへ) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 リンク
一般社団法人 北海道建築技術協会
〒060-0042
札幌市中央区大通西5丁目11
大五ビル2階
アクセス
TEL (011)251-2794
FAX (011)251-2800
▲ ページのトップへ