2014年8月19日

No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅

ちょっと真面目チョット皮肉 156

石山祐二 *

北海道のほぼ中央に位置する旭川駅から北に向かう宗谷本線の普通列車に乗ると 9 番目に無人の小さな塩狩(しおかり)駅がある(写真 1)。この駅から徒歩数分で木造 2 階建の「塩狩峠記念館」に着く(写真 2)。これは三浦綾子が作家になる前に旭川市で雑貨店を営んでいた建物である。

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写真 1 塩狩駅
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写真 2 塩狩峠記念館、三浦綾子旧宅

映画やテレビで度々取り上げられているので「氷点」の説明は不要かも知れないが、今からちょうど 50 年前の 1964(昭和 39)年に 731 編の応募作品の中から選ばれた小説である。この懸賞小説を執筆した建物が移築され記念館となっていて、小説「塩狩峠」もこの建物で執筆された。

三浦夫妻がキリスト教の伝道所として寄贈したこの建物は、老朽化のため解体されることになったが、「氷点」などの作品が生まれた建物を惜しむ声が高まり、移築されて記念館となったのである。もとの場所に残すことができればさらに良かったであろうが、解体されることが決定していた中では、次善の策であったのであろう。移築場所については、塩狩駅のある和寒(わっさむ)町と三浦夫妻が合意し、「塩狩峠」の舞台となった塩狩駅近くとなった。

1999(平成 11)年の開館式には三浦夫妻も出席したが、三浦綾子は病のため同年秋に 77 歳で亡くなっている。記念館には三浦綾子の全作品や生涯を説明した展示もあり、何時間過ごしても興味が尽きない。もちろん「塩狩峠」の説明もある。

国鉄職員「長野政雄」が乗っていた客車の連結器が突然はずれ、塩狩峠の急傾斜を上っていた客車は逆方向に走り出した。そのままでは脱線転覆すると感じた長野は自らの体を車輪の下に入れ、その列車を止めたという 1909(明治42)年の実話がモデルになった小説である。駅構内には「長野政雄氏殉職の地」と書かれた顕彰碑(写真3)がある。

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写真 3  顕彰碑「長野政雄氏殉職の地」

大事故が生じるからといっても、それを防ぐために自らの命を犠牲にすることは極めて稀で、それだからこそ小説となったに違いない。しかし、その顕彰碑を見ながらJR 北海道の職員が線路幅のデータを偽り、それが原因で脱線事故が生じたことを思い出してしまった。職員の仕事に対する意識のあまりにも大きすぎるギャップを感じ、命を犠牲にした人間とデータを偽った人間とを比べること自体が失礼であると思いながらも、自分自身はどちらに近い人間であろうかなどと反省させられた次第であった。

なお、旭川市には立派な「三浦綾子記念文学館」があり、そこにはより充実した展示がある(このことは 2002 年 8 月にここ(※建築の研究)で紹介した)。しかし、訪れる人はあまり多くはないが自然の林の中にある「塩狩峠記念館、三浦綾子旧宅」には別の趣がある。国道からも近く、車でも行くことができるので、三浦文学の愛読者でなくとも是非訪れて欲しいと思っている。ただし、開館は 4 月 1 日から 11 月 30 日まで、月曜は休館(祝日の場合は開館で翌日が休館)である。


* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2014.10 掲載

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) もくじ(クリック→目次ページへ) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 リンク
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