2014年8月17日

No.155 これからのフラットスラブ構造

ちょっと真面目チョット皮肉155

石山祐二 *

cyot155_img_0
写真 1 室内から見える柱と梁

ビルやマンションの室内で天井を見上げると、柱・梁はり が突き出ていること(写真 1 )に気が付くことがある。そして、柱や梁が見えない方が、デザイン的にはすっきりすると思う人も多いであろう。しかし、柱や梁は構造的に重要で簡単に取り除くことはできない。

このような建物の断面は図 1(左)のようになっていて、柱と梁で構成されるこの構造をラーメン(構造)という。図の点線は天井を示しており、天井裏には設備の配管や配線が入っている。梁には、この配管や配線を通すため、貫通孔と呼ばれる孔がある。天井を梁の下に設けると、梁を隠すことができるが、 天井高てんじょうだかhcが低くなり、室内空間が小さくなって圧迫感を感じる人が増えるであろう。

cyot155_img_1
図 1 ラーメン構造(左)とフラットスラブ構造(右)
cyot155_img_2
写真 2 建設中の建物(米国シアトル)

このようなことを考えると、図 1(右)のように梁のない構造ならば、天井高も高くでき、天井裏の空間は連続しているので、(貫通孔を設けなくとも)配管や配線を通すことができることに気が付くであろう。事実、梁のない構造があり、フラットスラブ構造あるいは 無梁版むりょうばん構造と呼ばれる。しかし、地震時に柱に取り付く部分の床スラブが損傷して、床スラブが落下する危険性もあり、日本ではあまり用いられていない。

cyot155_img_3
写真 3 梁のないフラットスラブ(無梁版)構造

一方、フラットスラブ構造は建物内の空間の有効利用・施工期間の短縮・工事費の削減などが可能となるので、海外では地震の起こる国々でもよく用いられている。写真 2 は米国シアトルの建設中の建物で、写真 3 から分かるように梁のないフラットスラブ構造である。

さて、最近のマンションの床スラブの厚さは、(梁・小梁がある場合)構造的には 12~15cm でよいが、上階からの足音やその他の生活に伴う騒音を遮断するため 20 cm程度と厚くしている場合が多い。これを発展させ、騒音防止のみではなく、梁の代わりになるように床スラブを厚くし、耐震的に有効な補強をするならば、耐震的なフラットスラブ構造が可能となる。日本でも、耐震性に問題の少ない工法が開発され、徐々に用いられるようになってきているが、今後さらに改良されるのであれば、この構造がもっと広範に用いられるに違いないと思っている。


* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2014.8 掲載

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 No.176 幻の橋タウシュベツ川橋梁 No.177 広瀬隆著「原発時限爆弾」を読んで! No.178 2018 年北海道胆振東部地震とその被害 No.179 地震にも津波にも強いブロック造の現状と将来 No.180  ISO の地震荷重と日本・EU・米国との比較 No.181  日本・ペルー地震防災センターの国際シンポジウムに参加して No.182  フィリピンは破れ・日本は芋?! No.183  ブレーメンの音楽隊とサッカー No.184 時間の単位は「秒,分,時,日,月,年」,その次は? No.185  サッカーボールの形と構造の変化 No.186  円周率を最初に計算したのは? No.187  JIS A 3306 となった ISO 3010「構造物への地震作用」 No.188  建物の整形・不整形を表す剛性率 No.189 水道水が美味しいのはどこ? No.190 設計用地震力の分布を表す Ai の導き方 No.191 美味しかった食べ物とギリシャ文字 No.192 構造物のロバスト性 No.193 ラーメンvsトラスと2つの鉄塔 No.194 久しぶりの海外でコロナ感染! No.195 長さの単位と建築のモデュール No.196 関東大震災100年「大地震とその後の対策」 No. 197 北海道の「挽歌」と「石狩挽歌」 No.198 トルコ共和国建国100年と地震被害 各種ダウンロード リンク
一般社団法人 北海道建築技術協会
〒060-0042
札幌市中央区大通西5丁目11
大五ビル2階
アクセス
TEL (011)251-2794
FAX (011)251-2800
▲ ページのトップへ