2014年7月3日

No.154 新渡戸稲造と武士道

ちょっと真面目チョット皮肉 154

石山祐二 *

図 1 旧 5千円紙幣(1984~2004年)
図 1 旧 5千円紙幣(1984~2004年)

日本を代表する国際人・教育者であった新渡戸稲造(にとべいなぞう、1862~1933 年)を旧 5 千円紙幣の肖像(図 1 )として知っている人も多いであろう。

写真 1 新渡戸稲造顕彰碑 (北海道大学構内、ポプラ並木に隣接する花木園内)
写真 1 新渡戸稲造顕彰碑 (北海道大学構内、ポプラ並木に隣接する花木園内)

新渡戸は 1881(明治 14 )年に北海道大学の前身である札幌農学校の第 2 期生として卒業、北海道開発に尽力、 1883(明治 16 )年に東京大学に再入学、米国とドイツに留学した。米国人の妻メリー夫人を伴って 1891(明治 24 )年帰国後、札幌農学校教授、京都帝国大学教授、第一高等学校校長、東京帝国大学教授、東京女子大学初代学長などを歴任した。

一時期、夫妻とも体調を崩し、米国カリフォルニアで転地療養し、この間に日本の精神文化を紹介した名著「武士道」を英文で書き、 1899(明治 32 )年に米国で出版、ドイツ語・フランス語など各国語にも訳されてベストセラーとなった。この本により国際的にも有名となっていた新渡戸は 1920(大正 9 )年の国際連盟設立に際し事務次長に選任され平和文化活動を行った。日本が国際連盟を脱退した 1933(昭和 8 )年の秋にカナダ・バンフで開催された第 5 回太平洋会議に出席後、満 71 歳でカナダ・ビクトリアにて客死した。

参考文献の「武士道」は英文の “BUSHIDO : The Soul of Japan”の邦訳で 2005 年に出版された文庫本である(なお、最初の邦訳版は 1908(明治 41 )年に出版されている)。本文 180 頁は 17 章からなり、どの章も 10 頁程度で難しそうな用語にはルビが振ってあり非常に読み易い。

内容的には、 100 年以上も前のことで、理解し難い部分もあり、現在の日本人の精神を表しているとは思えない部分もある。しかし、日本人には武士道の精神が今でも引き継がれていると感じる点、できることならば引き続き守っていきたいと思う点も多い。この本を読んでいくうちに、訳者が 21 世紀になってあらためて邦訳・出版した理由が自然と分かってくる。

最近の日本国内の諸問題や外交・近隣諸国との国際関係などを考えると、武士道の良い点は問題改善のために役立つに違いないと感じ、老若男女を問わず、特に若い人には読んで欲しいと思っている。そして、近隣諸国との軋轢がある中、日本の主張のみを言うのではなく、日本を含め世界各国がどのように考え・行動すべきかを示し、「武士道」を超えるようなものが出版されることを願っている。

写真 2 新渡戸記念庭園の石碑 (ブリティッシュ・コロンビア大学構内)
写真 2 新渡戸記念庭園の石碑 (ブリティッシュ・コロンビア大学構内)

1996年の北海道大学の創基 120周年記念に際し、彼の顕彰碑が構内のポプラ並木に隣接して建立され、その台座には “I wish to be a bridge across the Pacific.”と英語で刻まれている。なお、彼が客員教授をしていたカナダ・バンクーバーにあるブリティシュ・コロンビア大学には日本庭園があり「新渡戸記念庭園」と呼ばれている。庭園内には、彼の胸像や日本語の石碑(写真 2 )もある。

(参考文献)新渡戸稲造著、岬龍一郎訳「武士道」、PHP 文庫、2005 年 8 月第 1 版第 1 刷


* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2014.6 掲載

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 No.176 幻の橋タウシュベツ川橋梁 No.177 広瀬隆著「原発時限爆弾」を読んで! No.178 2018 年北海道胆振東部地震とその被害 No.179 地震にも津波にも強いブロック造の現状と将来 No.180  ISO の地震荷重と日本・EU・米国との比較 No.181  日本・ペルー地震防災センターの国際シンポジウムに参加して No.182  フィリピンは破れ・日本は芋?! No.183  ブレーメンの音楽隊とサッカー No.184 時間の単位は「秒,分,時,日,月,年」,その次は? No.185  サッカーボールの形と構造の変化 No.186  円周率を最初に計算したのは? No.187  JIS A 3306 となった ISO 3010「構造物への地震作用」 No.188  建物の整形・不整形を表す剛性率 No.189 水道水が美味しいのはどこ? No.190 設計用地震力の分布を表す Ai の導き方 No.191 美味しかった食べ物とギリシャ文字 No.192 構造物のロバスト性 No.193 ラーメンvsトラスと2つの鉄塔 No.194 久しぶりの海外でコロナ感染! No.195 長さの単位と建築のモデュール No.196 関東大震災100年「大地震とその後の対策」 No. 197 北海道の「挽歌」と「石狩挽歌」 No.198 トルコ共和国建国100年と地震被害 各種ダウンロード リンク
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