2012年11月10日

No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年

ちょっと真面目チョット皮肉 144

石山祐二 *

日本の技術協力によって設立されたペルーの首都リマにある国立工科大学の地震防災センター(CISMID:シスミッド)の創立 25 周年記念国際シンポジウムが 2012 年 8 月に当地で行われ,それに出席してきた。

地震防災分野における日本とペルーとの協力は、1970 年ペルー地震の直後に日本から調査団が訪れたのが発端といわれている。実は、それより前、1962 年から日本の建築研究所で行われている国際地震工学研修の第1回にペルーから参加したフーリオ・クロイワ先生の熱意がCISMID 創立の原動力で、彼自身CISMID の初代所長である。

私のCISMID との関わりは,1989~1991 年の 2 年間ほど日本人専門家 6 名のチームリーダーとしてリマに滞在したのが始まりである。当時は、停電・断水に悩まされ、治安も悪かった。私が帰国した直後に日本人の農業専門家 3 名ががテロによって殺害され、ペルーに滞在していた専門家全員が日本に帰国したことは今でも忘れることができない。

しかし、今回リマで感じたことは、多くの街灯が点灯していて夜も明るく、道もきれいに清掃され、車も大部分が新車となり、経済的に良くなっている様子である。

停電・断水の心配もなく、大型ショッピングセンターも新設され、商品も山積みで、20 年前とは、全ての面で良い方向に変わっていた。治安上の問題も少なく、生活し易く、商社マンの間では人気の高い海外赴任地となり、クスコやマチュピチュ、ナスカの地上絵などの観光客も多く、昨年・今年の経済成長率は 7% とのことである。

記念シンポジウムの発表論文は写真 1 のCD に納められている。写真 2 は開会挨拶をしているサバラ所長である。彼の演壇の前に置いてある正三角形のCISMIDという文字を斜めにあしらったロゴマークに注目して欲しい。左上の(赤い)部分は火災、M から連なるギザギザの線は地震動を表し、右下の(青い)部分は海でその中の 2 本の波線は津波を表している。

写真 1  記念シンポジウムの発表論文のCD
写真 1  記念シンポジウムの発表論文のCD
写真 2  記念シンポジウムで挨拶するサバラ所長
写真 2  記念シンポジウムで挨拶するサバラ所長

CISMID の正式なスペイン語の名称は“Centro Peruano-Japones de Investigationes Sismicas y Mitigacion de Desastres”、英語では“Japan-Peru Centre for Earthquake Engineering and Disaster Mitigation”、日本語では「日本ペルー地震防災センター」である。いずれも日本との関わりを直接表現している。

さて、CISMID のロゴマークをあらためて見ると、日本の 3 大震災をその順序で表していることに気が付いた。1923 年関東大震災の死者 105,000 のほとんどは火災、1995 年阪神・淡路大震災の死者 6,400 のほとんどは地震動による木造家屋の倒壊、2011 年東日本大震災の死者・行方不明 19,000 のほとんどは津波が原因である。三つの自然災害を表し(日本で起きたその順序までも一致し)ている、このロゴマークは,創立当時の都市防災室長のホセ・サトー氏の作品である。祝賀記念ディナーでは彼の他に多くの友人・知人に会うことができ感慨深かった。

自然災害を防ぐことは不可能であっても、それによる被害を少なくすることは可能である。20 世紀後半から世界的に地震活動が活発になっているように感じているが、CISMID がペルーのみならず、中南米そして世界の地震被害を含む自然災害の低減に寄与する拠点となることを期待しながら帰国した。


* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2012.10掲載

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