2012年3月6日

No.140  津波対策にも New Elm工法!

ちょっと真面目チョット皮肉 140

石山祐二 *

以前( 2006年 12月)、既存の建物を持ち上げ、その下に新たに階を増築する New Elm(ニューエルム:新増築)工法について紹介した(図 1参照)。増築部を車庫に用いると路上駐車が減り、ファミリールームとすると冬期の屋外活動が難しい寒冷積雪地では特に利用価値がある。さらに、増築階と既存部分の間に免震装置を設けると、(木造部分を補強しなくとも)耐震性が高くなる工法である。

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a )増築前           b )増築後

図 1  New Elm(新しい増築)工法

さて、本誌(※「建築の研究」 2011年 10、12月)で東北工業大学客員教授の田中礼治氏は「東日本大震災報告」の中で、津波対策として 1階を鉄筋コンクリート造としその上に木造を載せる工法を提案している。そして、 1階部分を(駐車場などに用いる)オープンな空間となるピロティとすることで、津波が通り抜けるようにすることを推奨し、このような建物が津波被害を免れた例も紹介している。

このような建物は外国にもあり、例えば 2004年インドネシア・スマトラ島沖地震の際に大津波を受けた被災地の復興住宅としても採用されている(写真 1参照)。津波が通り抜けるためにはオープンな空間の方がよいが、発生頻度の低い津波のために、その空間を利用しないのはもったいない。実際、インドネシアの復興住宅の中には 1階部分に外壁を設けているものも多く見られた。

写真 1 津波対策の復興住宅(インドネシア
写真 1 津波対策の復興住宅(インドネシア

そこで、津波に対しては次善の策かも知れないが、 1階を鉄筋コンクリート造とし、その部分を車庫や居住空間として積極的に活用することを推奨したい。 1階が鉄筋コンクリート造であれば(浸水深さ数メートル程度の)津波には耐えられるであろう。雪国では 1階部分が雪に埋もれてしまっても、 2階の玄関から出入りができるような住宅が最近では多い(写真 2)。軟弱地盤でも、1階の鉄筋コンクリート造の床スラブ全体を基礎とすることによって、地盤の沈下や不同沈下を少なくする効果もある。さらに、免震構造とすることもできる。

写真 2 積雪対策の住宅(新潟県)
写真 2 積雪対策の住宅(新潟県)

(1階鉄筋コンクリート造、2・3階木造)

以上のように、メリットの多い工法を推進させるため、(技術的なことはほぼ解決されているので)法制面から次のような後押しを期待し、この工法が広まることを願っている。

1) 1階部分(その一部でも)を容積率の算定から除外する。
2) 建蔽率を緩和する(少なくとも屋外階段程度は算定外とする)。
3) 周囲の環境を悪化させない範囲で)高さ制限を緩和する。
4) 1階部分を(その一部でも)固定資産税から免除する。
5) 1, 2階の間に免震装置を入れるように免震告示を改定する。(現行では基礎と 1階の間に免震装置を入れることを想定している。)

* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2012.2掲載

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) もくじ(クリック→目次ページへ) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 リンク
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