2011年11月21日

No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」

ちょっと真面目チョット皮肉 138

石山祐二 *

ヴォーリズが設計した最北の建築「ピアソン記念館」が北海道北見市にある。米国人宣教師ピアソン(George P. Pierson、1861-1939)は 1888(明治 21)年に来日し、東京で日本語を学びながら英語を教え、キリスト教の伝道を行った。 1894(明治 27)年に北海道に移り、 1928(昭和 3)年に帰国するまで函館、室蘭、小樽、札幌、旭川、北見において伝導を続け、廃娼運動や慈善活動にも貢献した。

ピアソンは、(今では北見駅から徒歩 15分で行くことができるが)当時は道もなかった高台が故郷に似ていると気に入り、日本に在住していたヴォーリズに設計を依頼し、 1914(大正 3)年に木造 2階建の山小屋風の住居を建てた。その後、帰国まで 14年間住んでいたのが、このピアソン記念館である(写真 1)。ピアソン夫妻帰国後、この建物の所有者は数回替わり、 1970年に北見市が復元工事を行い、現在では入館無料の記念館として NPO法人が運営管理している。

写真 1 ピアソン記念館
写真 1 ピアソン記念館

1階の天井(てんじょう)を見上げると、床根太(ゆかねだ)と 2階の床板を見ることができる(写真 2)。断面 4.5 × 30cmほどの根太が約 45cm間隔で配置されており、枠組壁工法(ツーバイフォー)のような床組である。床板には合板ではなく、細幅の板が用いられており、火打ち材のような水平筋かいも見える。外観を見ると 2階の階高(かいだか)が 1階に比べて低すぎ、また 2階の左右にある窓枠の隅が軒によって斜めに切り取られているので、何となくおかしいと感じた。その後、 2階の階高は図面より小さく造られているという説明を聞いた際には、私の直感が当たっていたので何となく安心したが、なぜ階高が低くなったのであろう。

写真 2  1階天井・2階床の構造
写真 2  1階天井・2階床の構造

運ばれてきた木材の長さが少し足りなかっため、やむを得ず階高を低くしたのか、床の上から柱を建てる(北米式の)工法とすべきであったのに、土台の上に 1階から 2階まで連続した通し柱を載せる(日本式の)工法としたため、 2階が低くなってしまったのかなど想像している。本当の理由は分からないが、軒の長さも図面より小さくなっていることや、工事中に棟梁(とうりょう)が変わり 3人目でようやく完成したという説明を聞き、大正初期にインチ・フィート表記の図面に従って洋風の建物を建設するには、色々と困難があったに違いない。

なお、設計者がヴォーリズ( William Merrill Vories、 1880-1964)と判明したのは 1995年のことである。彼は米国生まれの建築家で、日本で多数の教会、学校(明治学院大学礼拝堂、同志社大学校舎、関西学院大学校舎)など約 1600棟の建物を設計した。その中でピアソン記念館は最北の建築である。ヴォーリズはメンソレータムを普及させた近江兄弟社を創設した実業家でもあり、 YMCA活動を通じてキリスト教の伝道活動にも従事し、日本女性と結婚し日本国籍も得た人物である。


* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2011.10掲載

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) もくじ(クリック→目次ページへ) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 No.176 幻の橋タウシュベツ川橋梁 リンク
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