2011年4月11日

No.134 花嫁人形と蕗谷虹児

ちょっと真面目チョット皮肉 134

石山祐二 *

新潟県新発田(しばた)市に蕗谷虹児(ふきやこうじ)記念館(内井昭蔵設計、1987 年竣工)がある(写真1)

写真1 蕗谷虹児記念館(新発田市)
写真1 蕗谷虹児記念館(新発田市)

彼(本名は蕗谷一男)は新発田市生まれで、母親の死後、新潟市で丁稚奉公をしながら絵画を学んでいた。その才能が認められ、14 歳の時に東京に行き、日本画の勉強をした。竹久夢二とも交流があり、1921 年に蕗谷虹児として雑誌に挿絵掲載を初め、それが好評で朝日新聞の長編小説の挿絵画家として抜擢され、全国的に名前が知られるようになった。1924 年には詩画「花嫁人形」を発表している。しかし、彼は挿絵画家には満足せず、1925 年に絵画を学ぶためパリに5 年間ほど留学し、その間に公募展に連続入選するなど活躍した。1929 年に帰国した彼は、パリ留学中に杉山長谷夫が作曲した花嫁人形の歌を銀座の街角で聴いて「おれの詩だ」と気付いたという逸話がある。

1964 年に彼の生い立ちが新潟日報に連載され、それが大反響を呼び、これが基で「花嫁人形」の歌碑が、1966 年新潟市内のホテル・イタリア軒に面している小路の向かいに建設された(写真2)。彼の希望で選ばれたこの場所は、母親の死後彼が少年期を過ごしたところである。花嫁人形の詩は、「28 歳という若さで死んだ母と、貧しさのため芸者屋に売られた幼馴染みの女の子が二重写しとなって歌ったもの」と彼自身は書いている。

写真2  「花嫁人形」の歌碑(新潟市)
写真2  「花嫁人形」の歌碑(新潟市)

彼は1979 年に80 歳で亡くなったが、1997 年にふるさと切手「花嫁」(写真3)が発売され、それが非常に好評で、(手に入り難いかも知れないが)今でも販売されている。70 歳の時に描いた切手の原画が記念館に展示されており、小さな切手からは気が付き難いような細部まで間近に見ることができる。

写真3  ふるさと切手「花嫁」
写真3  ふるさと切手「花嫁」

例えば、下地の紅色がうっすらと浮かび上がって見える鶴の模様の入った白い角隠し、花柄模様が入った白色の花嫁衣装、その上の鮮やかな色彩の打ち掛け、そして目元からは涙がこぼれているのではないかと思わせるような様子(これは記念館で説明を受け、ようやくそうかも知れないと思ったほど繊細であるが・・・)もうかがえる。

 

26 歳の時に詩画「花嫁人形」を発表し、その後40 年以上も経って、母への追慕(そしてかわいそうな幼馴染みを想う気持ち)を持ち続け、70 歳の時に切手の原画となる「花嫁」を描いたのである。若いときに作った花嫁人形の歌と老年になって描いた絵の両方を知ると蕗谷虹児という画家・詩人に対する興味が一層湧くに違いない。


* いしやまゆうじ 北海道大学名誉教授
(社団法人)建築研究振興協会発行「建築の研究」2011.2掲載

連載「ちょっと真面目チョット皮肉」(北海道大学名誉教授 石山 祐二) もくじ(クリック→目次ページへ) No.134 花嫁人形と蕗谷虹児 No.135 清潔で安全なシンガポール No.136 広瀬隆著「東京に原発を!」を読み直して No.137 最近の建物の耐震設計に対する懸念 No.138 日本最北のヴォーリズ建築「ピアソン記念館」 No.128 「赤れんが庁舎」を美しく後世に残そう! No.139 建築と食卓の「bと d」 No.140  津波対策にも New Elm工法! No.142  津波に対する構造方法等を定めた国交省告示 No.141 建物の基礎と杭の接合は過剰設計! No.143 国際地震工学研修50 周年 No.144 ペルー国立工科大学・地震防災センター創立 25 周年 No.27 着氷現象と構造物への影響 No.145 リスボンは石畳の美しい街、しかし・・・ No.146 トンネル天井落下事故の原因 No.147 積雪による大スパン構造物崩壊の原因と対策 No.148 生誕100 年彫刻家佐藤忠良展 No.149 地震工学に用いる各種スペクトル (その1)  :応答スペクトル No.150 地震工学に用いる各種スペクトル(その 2) :  トリパータイト応答スペクトルと擬似応答スペクトル No.151 地震工学に用いる各種スペクトル(その 3)  :要求スペクトルと耐力スペクトル No.152 地震工学に用いる各種スペクトル(その 4): 要求スペクトルと耐力スペクトル No.153 中谷宇吉郎著「科学の方法」:氷の結晶のV字型変形 No.154 新渡戸稲造と武士道 No.155 これからのフラットスラブ構造 No.156 塩狩峠記念館 三浦綾子旧宅 No.157 ニッカウヰスキー余市蒸留所 No.158 三つの人魚像 No.159 ラオスと建築基準 No.160 北海道博物館2015 年4 月開館 No.161  30年振りのプリンス・エドワード島 No.162 道路標識と交通信号機 No.163 童謡「赤い靴」の女の子 No.164 地すべりと雪の上の足跡 No.165 建築物のダイヤフラム、コード、コレクターと構造健全性 No.166 地震による 1 階の崩壊と剛性率・形状係数  No.167  北海道新幹線と青函トンネル No.168 米国の建築基準と耐震規定の特徴 No.169 北海道三大秘湖の一つ「オンネトー湖」は五色湖 No.170 世界遺産シドニー・オペラハウス No.171 シドニー・オペラハウスの構造 No.172 北海道の名称と地名 No.173 鳩を飼わない「ハト小屋」 No.174 ロンドン高層住宅の火災の原因は改修工事!? No.175 断熱性能を示す Q 値、U A 値とその単位 No.176 幻の橋タウシュベツ川橋梁 リンク
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